<1・ピーター・パン、襲来>

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 勿論、社会人になってもう二年目なのだし、いつまでも学生気分でいてはいけないことくらいわかってはいる。空気を読むスキルは、基本的にどんな仕事であっても要求されるものだろう。今のご時世、最も必要とされるのはどんな学力やちょっとしたスキルよりも、周囲の人間やお客様と円滑に仕事ができる“コミュニケーションスキル”だ。どうにも凛音は、それが決定的に欠けていていけない。  そして、始めたことも長続きしない。昔からそうだ。小学校の時にやっていたサッカーも。中学生の時にやっていた空手も。高校の時にやった剣道も。どれもこれも、中途半端でやめてしまった。運動は好きだしスポーツそのものに罪はないのに、気づけば“やりたいことを好きなだけやる”という当たり前のことができなくなっている。ふと“続けるのが無理だな”と感じる瞬間が訪れてしまうのだ。それも始めて、二年以内に。  今回の仕事もそうなのかな、と思い始めている。この不況、三十社以上落ちてやっと拾ってもらえた会社であったというのに。先輩に相性の悪い人はいるけれど、同僚にいい人はいるし、隣にはちょっと気になる可愛い後輩もいるというのに。 「加賀美君はいいよなあ。何でも器用にできるし、空気読めるし。昔からクラスの人気者だったんじゃないか?」  少々飲みすぎたのは事実だ。目の前の群衆がゆらゆらと揺れ動いて見える。すぐ隣にいる瑠衣の声もどこか遠い。リバースしないだけまだマシかもしれないが、経験上二日酔い確定コースなのはわかっていた。瑠衣はちゃんと、飲みすぎですよと三杯前には止めてくれていたというのに。 「私はダメだあ。何をやってもうまくいかん。空気ってなんだよ美味しいの?っていうね。何で正しいと思ったことをやっちゃいけないんだよ、ちっくしょう」 「……先輩達の手前、俺も大きな声では言えないッスけど」  誰にでも優しく、温和な後輩は。苦笑しながらも、ゆるゆるとしか動かない凛音に歩調を合わせてくれる。 「正直、岸田さんは間違ってなかったと思いますよ。先方のことを考えるなら、まだ予定の段階であっても入荷時期を教えておいてあげた方が絶対親切ですし。……そもそも規則違反したわけでもないのに、暗黙の了解がどうたらって言ってあんな言い方する課長はおかしいと思いますもん」
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