<1・ピーター・パン、襲来>

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<1・ピーター・パン、襲来>

 昔から、何をやっても長続きしないと言われる。集中力がないからなのか、達成感を得るのが下手くそだからなのか。  いっそ、それが“天才ゆえの悩み”であったならどれほど良かったことだろう。居酒屋の帰り、岸田凛音(きしだりんね)はそう思う。なんせ“今の仕事をやめようかな”と思っている最大の原因は、仕事ができないせいで上司にボロクソに叱られた、であるからなのだから。 「岸田さん、大丈夫ッスか?ちょっと足フラついてません?」 「うう、加賀美(かがみ)君超優しい……泣いちゃう」  でもって今、優しい新入社員の後輩に慰められながら駅まで向かっている最中ときた。加賀美瑠衣(かがみるい)君。長身で可愛い顔の、爽やか系男子だ。髪の色が明るくてちょっとチャラい印象はあるが、実際は先輩にも同輩にも気配りができるしテキパキ動ける“当たり”な新入社員である。カオスと名高い営業部でお局様達にもしっかり評価されているのだから凄い話である。  対して営業の補佐で事務をしている凛音と来たら。今日も今日とて“余計なことばっかりして!”と先輩達にこっぴどくお説教されたばかりなのである。次の商品の入荷時期を教えるな、なんて誰も言わなかったではないか。知っていた方が先方も助かるに決まっているのに、何故あんなにも怒鳴られるのか。 ――いやわかってるよ?土壇場でクレームにならないためにギリギリまで伏せておきたいってのはさあ。だけど、長年世話になってるお得意さんじゃねーかよ。なんで親切にしたらダメなんだっつーの。  昔からそうだ。自分ができる、と思ったことなら何でも手を出したくなってしまう。目の前に困っている人がいて、自分にできることがあるならそこで手を出さないで我慢するということができない。結果それが空回ったり、お節介になって叱られることも少なくないというのに。いつだって、凛音は空気が読めないせいで失敗してばかりいるのである。
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