唇まで、あとちょっと。

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私が飛び退いたのとほとんど同時に、青井がパチッと目を開いた。 あ、ぶなかった……気づかれてないよね……? 青井は寝起きの虚ろな視線をさ迷わせながらも、私の姿を視界に捉えると、ふにゃっと笑った。 「やっぱり、日生だった」 「え。やっぱり、って……?」 「んー……? 何か今、日生の匂いがしたからさ」 に、匂い……!? 私は咄嗟に自分の制服や髪を引っ張って嗅いでみる。 「やだ、くさい?」 「んなわけあるか。なんつーか、いー匂い。でもきっと俺にしか判別できないねっ!」 青井は、へへっと無邪気に笑う。私は顔に熱が集まるのを感じて、「犬かよ、バカッ」と突っ込んでしまった。 あぁ、また……こういうところが可愛くないのに。 「……待っててくれたの?」 「おう。教室にまだ鞄が置いてあったからさ。たまたま廊下で会った琴梨(ことり)に聞いたら、お前が図書室行ったって言ってたから」 あいつも今日面談だったみたい、と青井。 琴梨とは、琴ちゃんのこと。 青井と琴ちゃんは中学からの友達同士だし、野球部でも一緒で仲良しだから、青井が名前で呼んでることは前から知っていた。 なのに、どうしてだろう。 今日は……少しだけ、チクリと胸が痛い。
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