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「今日からおまえは俺の妻だ」
「………は?」
「荷物は此処にある物だけか」
「……ちょ、何を」
「おい、サッサと運び出せ」
「っ、ちょっと!」
『サッサと運び出せ』といったと同時に男の後ろから引っ越し業者と思わしき数人の男たちが部屋に入って来て手際よく荷物をまとめていた。
「ちょっと、何してんのよ! 勝手に人の物に手をかけるな!」
「人の物ではない。もう俺のものだ」
「はぁ?! あんた、いきなりやって来てなに寝惚けたこといってんのよ!」
「寝惚けていない。妻の物は夫婦共同資産として俺の物でもある」
「な……なに屁理屈こいてんのよ! ──っていうか、先刻からいっている『妻』ってなによ! 私はあんたのことを全然、全く知らないわよ!」
「………」
「ちょっと、黙っていないで何とかいいなさいよ!」
「──気の強い女だな」
「はぁ?!」
なんだか眉間に皺を寄せあからさまにため息をつかれた。
(いやいや、ため息つきたいのは私の方なんですけど?!)
仕事が休みの日曜日。昼過ぎまで寝ていられる至福のひと時に突然鳴り響いた部屋のドアを叩く音。
余りにも煩くて仕方が無く起きてドアを開けた途端、真っ黒なサングラスをかけたスーツ姿の背の高い男が『今日からおまえは俺の妻だ』とのたまわったのだ。
(これがため息をつかずにいられるか!)
いやいや、ため息どころか今、この目の前で繰り広げられている状況は犯罪に等しいのではないか?!
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