5781人が本棚に入れています
本棚に追加
「そっか……忘れていただけ、なんだね。ははっ、私、変な勘違いしちゃって恥ずかし──」
「それだけど!」
「へ?」
私が勝手に赤ちゃんが欲しかったから避妊しなかったと見当違いな考えをしたことに羞恥を感じていると蓮は勢いよく椅子から立ち上がり私の隣の席に座った。
「……」
「蓮?」
蓮は私の顔を見つめたまま何かを盛大に考えているようだ。
(あ……こういう顔、よく見る)
蓮がとても言い難いことを告げようとする時、私を如何に傷つけないように伝えようかと必死になって考えている時の顔だ。
(本当、優しいんだから)
一緒に住むようになってこんな顔を何度も見て来た。なのですっかり蓮が黙った顔で何を考えているのかが分かるようになってしまっていた。
だからこんな時はさり気なく助け舟を出す。
「どうしたの? 何か言いたいなら何でも言って」
「……」
「蓮の言葉なら私、ちゃんと訊くから」
「……」
なるべく話し易くなるような口調と表情を蓮に与える。そうすると蓮はちゃんと口を開いてくれるのだ。
「……これから俺の言うことで花咲里が傷つくかもしれない」
「うん」
「だけど──最後までちゃんと訊いて欲しい」
「うん」
「俺は口下手だから思っていることを伝えるのが苦手だが、なるべく分かり易く話すから」
「分かった」
そう前置きをしてから気持ちを話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!