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「俺が昨日、ゴムをしなかったのは本当にテンパってしまって……単純にするのを忘れていただけという理由だ」
「……」
「ゴムをしなかった、避妊しなかった、それが結果、あ……あ、赤ちゃんが出来るということに繋がるのだと気が付いたのは先刻の花咲里の言葉でだった」
「……」
「そうだよな……本来そういうことって子どもを作るための神聖な行為なんだよなと」
「……」
「子どもを作らないならきちんと避妊する。それが常識なんだって……知っていたはずなのに……」
「……」
「それを俺は失念していた。……ごめん」
「……」
(それは何に対しての『ごめん』なの?)
私は別に蓮が避妊しなかったことに憤りを感じているわけではない。私たちは夫婦なのだから赤ちゃんを作ったって、出来たっていい関係にあるのだ。
だから私は蓮も私と同じ気持ちであったのかどうか──それが知りたかった。
──なのに
「俺は……赤ちゃん、欲しくない」
「………え」
不意に放たれた蓮の言葉が鋭い刃先を持って物凄い勢いで私の心臓を突き刺した──ような気がした。
(今……なんて……)
蓮の言葉を訊いたはずだった。
『俺は……赤ちゃん、欲しくない』
そう告げた言葉を私は確かに訊いた。だけど何故か、蓮が何を言ったのか分からなかった。
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