spicesugar 第九章

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そんな感じで思いを巡らせていると話しかけて来たのは先輩社員の榛名さんだった。 俺の中ではすっかりいい人認定されていた人だ。 (……拙い) 一連の行動を見られていたのかと思ったら少し気まずい気持ちが湧いた。 「何かいいことでもあった?」 「……」 当然そう訊かれると思ったから湧き出た気まずさだったが、勿論花咲里とのことを話すわけにもいかずになんと答えようかと考えていると榛名さんは続けた。 「まぁ、いいことだらけだろうねぇ」 「は?」 「だって新婚さんだもんね。毎日ニヤニヤしちゃうくらいいいことばっかりあるんだろうね」 「……」 「本当、結婚してからの伊志嶺くんを見ていると結婚ってそんなにいいものなのかって考え改めさせられるよ」 「……」 「でもさ、仕事はちゃんとやろうよ。しっかり稼がないと奥さん食わせて行けないからね」 「……はい」 なんだか勝手に自己完結したように会話を終わらせた榛名さんは書類に目を通し始めた。 (……あぁ、やっぱりこの人はいい人だ) 俺が何も言わなくても勝手に解釈して終わってしまう。しかも言うことがいちいち俺にとって嬉しいことばかりなのも俺が榛名さんをいい人認定した一旦だった。 (榛名さんの言う通りだ) いつまでもニヤけてばかりいてはいけない。花咲里に恥ずかしくないように、一家の大黒柱という自覚をもって仕事に邁進しなければと気持ちを改めた。
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