spicesugar 第九章

21/50
5741人が本棚に入れています
本棚に追加
/353ページ
終業時間のチャイムが鳴り始めたフロアは一気に人の気配が流動する。 結婚してからつくづく思うが、本当に残業のない会社でよかった。まぁ、仕事の内容によっては多少の残業が発生したり取引企業の都合で休日出勤があったりはするがそれはごく稀なこと。 ホワイト企業に勤められている幸運にいつも感謝しながら退勤するのだった。 いつも通り自宅最寄り駅に着いた時、花咲里に帰宅のメールを送ろうとしてハッと気が付いた。 (そうだ……買物をしなければ) 花咲里が食事の支度をしてくれるようになってから帰宅時に買物をする機会は減ったが、それでも食後のデザート用にプリンを買うため店に寄ることはあった。 しかし今日はプリンよりも重要な物を買わねばならない。 (そうだ、買わなければ!) 俺は初めての買物に年甲斐もなくドキドキしていた。──とはいえ、一体何処へ行ったら手に入るのだろうか。 (いつものスーパーに置いてあるのか?) 今まで生きて来た中でそれを一度も買ったこともなければ売っているのを目にしたこともなかった。 高校の時、一度その手の授業の時に参考資料として手渡された実物があったが使う予定もなかったためにずっと机の引き出しに仕舞ったままだったが、独り暮らしするため今のマンションに引っ越した際、捨ててしまっていた。
/353ページ

最初のコメントを投稿しよう!