spicesugar 第九章

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過去に苦労したことを今、慰めてもらっても特に感動も感激もしない。それよりもこれからのことを考えてくれるそんな蓮の気持ちが嬉しかった。 そうしてバスが山道を登ること数十分。ようやく両親が眠る霊園に到着した。 「おぉ、見晴らしがいいな」 バスを降りて開口一番にそう言ったのは蓮だった。 「そうでしょう? あんまり霊園っぽくないよね」 此処は樹木葬がメインというわけではないために多くの墓石が並ぶ区画もあったけれど、それでも広い面積のおかげで一見緑地公園のような光景が広がっていた。 「普通の墓地と樹木葬の場所は違うのか?」 「うん。樹木葬専用の区画があって──」 私は蓮を案内するように霊園内を進んで行った。 (なんだか変な感じ) 歩きながらついそんなことを思ってしまった。いつもひとりで来ていた場所に誰かと──蓮と来ていることが不思議だった。 最後に此処に来た時はまさか結婚して夫と訪れることになるとは想像もしていなかったから。 (本当、人生何が起きるか分からないなぁ) 不意に繋がれている手の先の蓮を見つめた。すると私の視線に気が付いた途端に口元が緩んだような気がした。 (多分、笑っている……よね) 一見何の変化もないだろうその強面に表情があると知り、細やかな感情の意味を知ることが出来た今、私はとても幸せだった。
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