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両親が眠っている場所までやって来た。其処にはすっかり生育して薄紅色の花をつけている樹があった。
「これ、なんていう樹だ?」
「ハナミズキ」
「あぁ、訊いたことある」
「歌とかで有名だよね。ハナミズキは樹木葬に向いている花なんだって」
「向き不向きがあるのか」
「みたい。ハナミズキの他にもほら、色々あるでしょう?」
私は周りに植えらえている樹を指差した。
「桜とか百日紅、紅葉や雪柳なんかもあるみたい」
「桜……」
「まぁ桜に関しては色々謂れがあるけれど其処には死体を埋めているわけじゃないから。あくまでも遺骨」
「そこまで想像はしていなかったが」
「でもちょっとはしたでしょう? 桜の樹の下には──って」
「……」
黙ってしまった蓮を見てやっぱりと思ったけれど、本当に分かり易くて笑いそうになったのをグッと堪えた。
「ごめん、不謹慎だったか」
「ううん、蓮らしいなって思った」
そんなことを言いながら両親が眠るハナミズキの根元にある御影石のプレートに手をかざした。
15センチほどの真四角のプレートには父と母の名前が刻まれている。それをそっと撫でながら「お父さん、お母さん、来たよ」と小さく呟いた。
そんな私を見て蓮も同じようにその場にしゃがみこんで私の手の上に重なるように掌を乗せた。
「お花とか線香とか、供えないんだな」
「供えないよ。お花はもう此処にあるしね」
自然であることが求められている樹木葬に余分なお供え物は要らない。ただ故人を想い、偲ぶ祈りだけがあればいい。
そうしてしばらく心の中で両親に蓮を紹介した。
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