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突然訳が分からないまま攫われるように結婚してしまったけれど、実は小さい時に会っていた蓮と今はすごく幸せな毎日を過ごしていると。
蓮が如何に私を大切にしてくれているのか、それを心の中で滔々と語った。
(あぁ……初めてだな)
こんなにも穏やかな気持ちで両親と向き合ったのは恐らく此処に来てから初めてのことだと思う。
ひとりで来ていた時は不安と焦燥感しかなかった。
これからどうなるのか、先行きの見えない未来に対しての怖さと、そして死ぬまでひとりぼっちなのかもしれないという不安で心が押し潰されそうだった。
いっそのこと両親の元に行きたいと思ったこともあった。
でも今は──……
「……」
私の隣で眼を瞑っている蓮の横顔を見つめた。蓮は今、何を語っているのだろうと気になるけれど、あえてそれを訊こうとは思わない。
(多分……思っていること、分かる)
想像でしかないからそれが正解かどうかは分からないけれど、私は何も不安に思ったりしない。
本当に不思議なのだけれど蓮の隣は両親といた時と同じような安心感がある。まるで両親の代わりに蓮が現れてくれたような──そんな深い縁を感じて仕方がなかった。
不意に視線を上げれば綺麗に咲き誇っているハナミズキの花が風に吹かれてゆらゆら揺れている。
その様がまるで両親が『よかったね、よかったね、花咲里』と言っているみたいでじんわりと目が潤んでしまった。
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