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そしてふわりと空気が流れた気がして徐に目を開けた。其処には立ち上がっていた花咲里がハナミズキの花を優しく触っていた。
その姿が俺には花咲里が両親と対話しているように見えた。
(あぁ……とても眩しい)
陽差しのせいもあるのか大きく目を見開くことが出来ない。
「なんで怒っているの」
「──え」
気が付けば花咲里が俺に向き合ってそんなことを言った。
「顔、すっごいしかめっ面しているよ」
「これは、その……光が眩しくて」
「……」
「決して怒っているわけでは──」
「うっそ」
「え」
「怒っていないのなんて分かっているって」
「……」
花咲里が笑っている。
ほんのり赤い目をしているくせに俺に向ける笑顔は本当に眩しくて──……
(っ、耐えろ、俺!)
思わず花咲里を力強く抱きしめたい欲に駆られたが、今いるこの場所に相応しい行為とは思えずグッと堪えた。
そんな気持ちを誤魔化すように花咲里に「腹、減ったな」なんて言っていた。一瞬ぽかんとした花咲里だったがすぐに破顔して「私も」と同調してくれた。
霊園近くに美味しいお蕎麦屋さんがあるのといって花咲里は軽やかな足取りで先を行った。
そんな花咲里の後姿を見ながら不意に後ろを振り返った。一瞬、少しだけ強い風が吹きハナミズキの花が揺れた。
それを見たら何故か花咲里の両親に応援されたような気がして目頭が熱くなったのだった──。
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