* 恋の真実 *

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 11月5日、月曜日。今日は文化祭の振替休日で学校は休みだ。そして生まれて初めてのデートの日。早めに出たかったのになんだかんだで家を出たのは9時だった。  それにしても緊張と眠気で足元がおぼつかない。昨日の夜22時頃に奈々子から電話が来た。千秋と一緒に帰ったことや両想いだったことを話したら、奈々子は電話の向こう側で号泣した。 1番近くでずっと見守って応援し続けてくれたから自分のことのように喜んでくれた。 その後もついいつもの様に長話になってしまい、気付けばあっという間に12時を過ぎていた。電話を切った後もなかなか眠れず、やっと寝れた時には2時をまわっていただろう。 (せっかくのデートなのに何してるんだろう私。) 子供の時の遠足の前日のように興奮している。 もし先に千秋が来ていたらなんて声をかけるものなのだろうか。どうやったらスムーズに手を繋げるのだろうか。 デート初心者には何もかも全てが未知の世界だ。 確かにこんなに不安な気持ちになるなら、神頼みしたくなる気持ちがわかる。茜の元に勇気を出してやってくる女の子たちは、本当にみんな頑張っているんだと改めて思った。  ゆっくり歩いては来たがもう駅に着いてしまった。振替休日とはいえ世の中は普通の平日なので、この時間だとそこまで混み合っていない。 時間は9時45分。もしかしたら千秋の方が先に来てるかもしれないと思い、キョロキョロと辺りを見回すがまだいないようだった。  茜は駅前のロータリーにあるベンチの端に座った。 (駅前って言ってたけど本当にここで良かったのかな?駅前広いんですけど...。) 具体的に聞いておけば良かった。それよりも連絡先を聞くべきだった。  (彼氏の連絡先を知らない彼女なんているの?) 会えなかったらどうしようと不安になってくる。 すると茜が座っているベンチの反対側に高校生の男の子が座った。茜はその人に視線を向ける。 (...あれ?どこかで見た気が...) 「あ!涼平くん!」 高校生はいきなり名前を呼ばれビクッとしてこちらを向いた。 「ん?あれ...茜か?」 茜は思い切りうなずく。 彼の名は柿沼涼平。小学生の時の帰り道にネギやらなんやら毎日投げつけてきた張本人。中学までは一緒だったが高校は別なので会うのは久しぶりだ。 「涼平くん学校は?」 「見てわかるだろ。サボりだ。」 なんの悪びれもなくニカッと笑い親指を立てる。 涼平は中学生の時からよく学校をさぼっていた。 実はその頃に告白されたことがある。好きな人がいたので気持ちには答えられなかったが、その後に今までいじめていたのは好きだったからだと謝られて和解した。それからの方が仲は良かった。 「茜こそそんなおしゃれして。千秋とデートか?」 「っな!!な、なんでそれを!!?」 茜の顔が真っ赤になり慌てふためく姿を見て、涼平が吹き出して笑う。 「千秋ずっと茜のこと好きだったのにやっとかよ!」 「え?ずっと?ってなんで涼平くん知ってるの?」 「あ、お前知らないんだっけ?」 茜は首を傾げた。 「ほら!お前が俺の取り巻きしてるやつらに嫌がらせされてた時あったろ?」 忘れるはずがない。あまり思い出したくない過去だ。 「あの時さ、千秋が俺にすげー剣幕で切れたんだよ。」 「え...千秋くんが切れた?なんで?」 「結局解決できるのは俺だけだろって。俺からそいつらにキッパリ言わなきゃ解決しないのに、好きな女くらいちゃんと守れよ!ってさ。」 「え...。」 嫌がらせをされてから半年くらいたったある日、突然ピタッとされなくなったことをずっと不思議に思ってた。何もしてないし何も言ってないのに、なんでいきなり嫌がらせが終わったのだろうって。 (......まさか千秋くんが止めてくれたなんて...全く想像もしたことなかった。) 「男子の中ではわりとみんな千秋の気持ち知ってたけどな。ただお前がどう思ってるかは謎だったけど。」 「え?!」 茜は呆然とした。9年間同じ学校にいたのに、千秋の知らない部分が多すぎる。 (ってことはもっと積極的にしていたらもっと早く進展してたの?!) 「おーい!大丈夫かー?」 フリーズしている茜の顔の前に涼平が手をヒラヒラと振る。 「おーい!あかねー?おー...」 ーーガシッ。 いきなり涼平の頭を後ろから大きな手が掴んだ。 「おい。お前余計なこと言ってないだろーな。」 「げ。」 振り返ると少し息を切らした千秋がベンチの後ろに立っていた。
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