103人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
するとその時、灯りが徐々に暗くなり開演のブザーがなった。
ちらほら人は増えてはいたが、どうやら3Dや吹き替えの方が人気らしく、平日のお昼時ということもあって茜たちの周りに座る人はいなかった。
茜は『彼女』という千秋に言われた言葉に完全に気持ちが浮き立ち、隣に座る彼が気になってしょうがなくなっていた。
(横顔のシルエットやっぱかっこいいなぁ。)
ずっと遠くから見ていた横顔をこんな真横の特等席で見れるなんて嬉しすぎる。
「前見ろ。」
「はい。」
バレた。でもそんな諌め方も好きだ。
しばらくして本編が始まった。冒頭のシーンは主人公の女の子が、王子様とある約束をするところだった。『5年後に私を迎えにきて、そして貴方のお姫様にしてください。』と。
「約束」といい「お姫様」といい、なんとなく他人事ではない話だ。だからかわからないが、初めから茜は映画の世界に引き込まれていった。
ふと横を見ると、最初はあまり乗り気じゃなかった千秋も話の展開を真剣な顔で観ている。
(この真面目な顔好きなんだよなぁ。そういえば、千秋くんが言っていた『約束』ってなんのことなんだろう。)
あまり千秋と話をしたことがなかった茜は、9年間のうち『会話』をした記憶まで遡った。
小1のイチョウ並木。結局そこまで行かないと心当たりはないので忘れるはずはない。
(あの時、千秋くんが言ったことは...。)
『間宮さん、……だから、もう泣くな。』
途中が聞き取れなかった言葉。もしかしてそこの部分に答えがあるのだろうか。
劇場の中が冷え込んできて少し鳥肌が立ってきた。11月に入ったがここの所ところ暖かい日が続いていたので薄着で来てしまった。
千秋は来てきたジャケットを膝の上に置いて、セーターを腕まくりしている。
(やっぱ普段運動をしてる人は新陳代謝が高いのかな?)
男の人の腕まくりはかっこいい。千秋は細身だがまくった袖から見える腕は、肘から手首にかけて筋肉がしっかりついて美しい。またしてもそのシルエットに見惚れる。
集中力を切らしている茜に千秋が気付いて振り向いた。また怒られると思いパッと前を向くと、膝の上に置いていた自分のジャケットを広げて茜の膝にかけてくれた。そして何事もなかったかのようにまた肘掛に腕を乗せる。
(...紳士的!!)
やることが何から何までスマートでたまらなくキュンキュンする。
茜は少し勇気を出して肘掛に置いてある千秋の手に自分の手を重ねてみた。千秋は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにクルッと腕を回し手を握り返す。
千秋の触れた部分が熱くて甘い。好きな人と繋いだ手は、どうしてこんなにも心まで繋がっている気持ちにさせるのだろう。何もかもが特別で今まで感じたことのない気持ちにさせてくれる。
(本当に大好きだなぁ...。)
最初のコメントを投稿しよう!