私から貴方へ

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数年ぶりに入った手芸屋さん お店には色とりどりの毛糸が並ぶ 貴方には何色が一番似合うのかしら? 来年から社会人になる貴方だから、落ち着いた紺がいいかしら? それとも、遊び心を入れてキャメル? 暖かさで言えば、橙も捨てがたいわね…… 服に合わせやすい、黒や白も悪くない 私がこんなにも悩んでること、貴方はちっとも気づかないんでしょうね 貴方ってば、いつも受けとるばかりなんですもの 悩みに悩んで選んだ毛糸 大好きな貴方を想って、一針一針編んでいくわ 貴方の冷えた身体を、少しでも温められるように 手編みなんて古いって笑われちゃうかしら? でも、一目一目が私の愛の重さなの 貴方に宛てた手紙も 貴方にかけた電話も 貴方に会いたくて追いかけた日も 貴方に贈ったいくつもの贈り物も 貴方に喜んで欲しくて 貴方に笑って欲しかっただけなのに 貴方はいつもいつもいつもいつもいつも 私のことなんて知らんぷり いくら私が貴方を許すからって 限度ってものがあるでしょう? 鈍感な貴方、いい加減私の愛を思い知りなさい どうせ私を見ると、貴方は恥ずかしがって逃げてしまうから、こっそり玄関にかけておくわね これが最後のチャンスよ 私から貴方へ 愛を込めて
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