五月雨 ー麻琴sideー

10/10
1950人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
 鈍臭く転んでしまったが、思わぬところで花屋さんと再会できてしまった。接点ができた事に嬉しくなる。まさかこんな身近にいたなんて思いもよらなかった。心臓がいつもより遥かな大きな音を立てている、大粒の雨がアーケードに当たる音より大きい。  一目惚れに近かった。  真っ先に外見に惹かれたが、静かに話す低い声や笑った時にできる目尻のシワに、郁人くんと話す時に少し乱暴なお父さんの顔を見て、私の心臓はどんどん速度を増していった。奥さんは亡くなっている様子だったが、あの容姿だ。もしかしたら既にもう次の奥さん候補がいるかもしれない。あの男前で今日、私に対応したような紳士的なのであれば子供が居たとしても、世の女性が放っておくはずはない。現に私はもう彼のことが気になって気になって仕方がない。雨が苦手と言った、揺れた瞳の意味も知りたい。 「よっし、そうと決まれば、善は急げ」 私は小さく呟き、右膝が痛いことも忘れて、小走りで家に帰った。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!