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十二月。
枯れた木立の間に寂しくたたずむ美術館の前に、チカと朝妻くんがどこか所在なげに並んでいた。そこへ私と宗田くんが、これも頼りなく並んで近づいていく。
「あ、千冬、宗田くん。これで四人揃ったね。私たち、いっこ前の電車に乗ったみたい」
私たちは、この日もチカの発案で、このさびれた美術館に集まっていた。
地元の美術家たち――私は誰の名前も知らなかった――の作品を集めた、この辺りでも知る人ぞ知るという立ち位置の美術館で、少なくとも高校生がデートで楽しく訪れるところではないようにないように見えた。
渋茶色のレンガでできた建物の中に、料金を支払って入る。順路はあってないようなもので、二階建ての閲覧室はどこから巡ってもいいようだった。ただその分、小さい建物なのに道に迷いそうではある。
「ここから、二人ずつ別行動にしようよ」
チカがそう言うので、二組の恋人たちは、それぞれに分かれた。チカたちは一階に、私たちは二階へ上がって、他に誰もいない廊下を進んでいく。
「チカ、どうしてこんなところに来たがったのかな」
私ならともかく、にぎやかな場所を好むチカにしては珍しかった。それが、胸の奥を小さな棘でつつくような不安感を生む。
「さあな。あんまり、楽しい話がしたいわけじゃないんじゃねえの」
宗田くんも、いつもとは雰囲気が違った。
さほど興味もない大きな油絵の前で立ち止まり、私たちは向き合った。
「朝妻、別れることにしたらしいぜ。チカちゃんと」
「え」
予感していなかったわけではない。でも、いざとなると現実感もない。
この四人の形が変わるということに、私はまだ向き合えないでいた。
「今日も、朝妻の奴、俺らをだしにむりやり引っ張り出されたみたいだぜ。もう二人で会う気はないんだってよ」
「そう……」
「だから、別れようぜ。俺らも」
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