8人が本棚に入れています
本棚に追加
美術館を出ると、私たちは四人とも、何食わぬ顔で落ち合った。
そして、また二人ずつに分かれて、帰った。
電車の中で、宗田くんは赤い目をして、「ありがとうな、ごめんな」と言って降りていった。
私は必死で首を横に振って宗田くんを見送り、電車のドアにもたれて、ぼんやりと考える。
なぜ、こんなにも辛いんだろう。
宗田くんに告白されて嬉しかった。友達に幸せになって欲しいから、チカの恋を応援した。自分の勝手な感情を、皆の幸せのために我慢した。
朝妻くんが、私のことを好きだと言ってくれた。
宗田くんが、私のために別れると言ってくれた。チカは、改めて朝妻くんに想いを伝えた。私は、誰も嫌いになってしまわないように朝妻くんを遠ざけた。
悪い人なんて誰もいない。嫌いな人もいない。
私たちは、辛いことや嫌なことから身をかわして、自分が望むことや楽しいことを選んで歩いていれば、幸せにたどり着けるはずだと信じていた。
それなのに、なぜこんなにも辛くて、誰も幸せではないんだろう。
私は、何を間違えたのだろう。
好きになるべき人を好きになれず、嫌いになるべき人を嫌いになれない。
幸せになろうとすると不幸がついて来て、不幸を追い払うと一番欲しい幸福も消える。
チカの、口には出せなかった言葉が、手紙となって朝妻くんに読まれていれば、違っただろうか。
私の、言えなかった言葉を綴った手紙を読んでもらっていれば、何かが救われていただろうか。
今でも、何度となくあの日のことを思い出す。
でも夢の中でさえ、私は全く同じ行動を繰り返す
最初のコメントを投稿しよう!