二つの手紙

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 美術館を出ると、私たちは四人とも、何食わぬ顔で落ち合った。  そして、また二人ずつに分かれて、帰った。  電車の中で、宗田くんは赤い目をして、「ありがとうな、ごめんな」と言って降りていった。  私は必死で首を横に振って宗田くんを見送り、電車のドアにもたれて、ぼんやりと考える。  なぜ、こんなにも辛いんだろう。  宗田くんに告白されて嬉しかった。友達に幸せになって欲しいから、チカの恋を応援した。自分の勝手な感情を、皆の幸せのために我慢した。  朝妻くんが、私のことを好きだと言ってくれた。  宗田くんが、私のために別れると言ってくれた。チカは、改めて朝妻くんに想いを伝えた。私は、誰も嫌いになってしまわないように朝妻くんを遠ざけた。  悪い人なんて誰もいない。嫌いな人もいない。  私たちは、辛いことや嫌なことから身をかわして、自分が望むことや楽しいことを選んで歩いていれば、幸せにたどり着けるはずだと信じていた。  それなのに、なぜこんなにも辛くて、誰も幸せではないんだろう。  私は、何を間違えたのだろう。  好きになるべき人を好きになれず、嫌いになるべき人を嫌いになれない。  幸せになろうとすると不幸がついて来て、不幸を追い払うと一番欲しい幸福も消える。  チカの、口には出せなかった言葉が、手紙となって朝妻くんに読まれていれば、違っただろうか。  私の、言えなかった言葉を綴った手紙を読んでもらっていれば、何かが救われていただろうか。  今でも、何度となくあの日のことを思い出す。  でも夢の中でさえ、私は全く同じ行動を繰り返す
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