二つの手紙

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■■■  美術館が取り壊される。  あの二通の手紙も、暗い隙間から解放される。  それを、少し羨ましいと思った。  私はこれから先も繰り返し、あの日の狭間に置き去りのままの気持ちを思い出すのだろう。  朝妻くんを見送った、美術館の中のあの部屋で、冷たい涙を流した。  その後美術館を出て、平気な顔で四人揃いながら、皆濡れた目元を隠していた。  弱まっていく冬の陽を追うように、誰もいない寂しい駅へ向かって、最後に四人で歩いた。  本当の言葉は何も言えないまま、胸の痛みを抱えたまま、誰もが誰かの幸せを祈っていた。  今までが、ずっとそうだったように。きっと、これからもずっと。  繰り返し、繰り返し、いつまでも。 終
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