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町外れの美術館が、来月には取り壊される。
私がそれを知ったのは、地元の情報誌の小さな記事からだった。
もう何年か前に閉館していたはずだ。誰も訪れることのなくなった、地方都市の、さらにその外れの小さなレンガ館。
そうか。
じゃあ、あの手紙は解放されるんだ。
そしてきっと瓦礫と一緒に、もう誰の目にも止まらないゴミとして、粉々になってどこかに消えていくんだ。
そう思うと、今さら、胸が鋭く痛んだ。
もう、高校を卒業してから五年も経つ。
それでも私は、あの薄暗い小さな美術館に、心を閉じ込めたままでいるのだ。
美術館が壊されていく時、あの手紙はひどく久しぶりに、太陽の光を浴びるのだろう。
隠したままで置き去りにされた、私たちの想いとは裏腹に。
■■■
高校生になった私、柊木千冬が、同級生の男子で最初に名前を知ったのが朝妻永遠くんだった。
ほっそりとしていて、物静かで、濡れたようなのに軽みのある黒髪が少し目元を隠していた。
私たちは似ていた。
休み時間に教室で読んでいた本が同じで、同じように食が細くて、同じように一人でいるのが好きだった。私と同じ人がいる、と思った。
私と朝妻くんの似ているところを探しては喜び、違うところを見つけては微笑ましい気持ちになった。
高校二年生の時、私に隣のクラスの彼氏ができて、朝妻くんは驚いたようだった。私自身だって驚いたのだから、当然ではある。
同じ時期に、朝妻くんにも彼女ができた。これも私は驚いたけれど、私にだって彼氏ができるのだから、私と同じである朝妻くんがそうなるのは別段おかしいことではないな、と納得した。
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