差し伸べられた光。

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 車の事故で両親を突然失った西崎恭平(にしざききょうへい)を取り囲んで、今まで見たことも聞いたこともなかった自称親戚たちは、喧々囂々の言い争いをしていた。うちには育ち盛りの子供がいる、俺だって妻は今妊娠中だ、子供を育てる金なんかない…ドラマのような、あまりにも現実離れした光景の中心に否応なしに立たされた恭平はただ茫然としていて、まるで人形のように身じろぎ一つしなかった。真っ暗な中で一人椅子に座らされているようで、椅子から立ち上がると、真っ暗な崖に転落するかもしれないような感覚に囚われていた。  「すみません、遅れました!」 聞いた覚えのない声とともに斎場控室の扉が開けられて、喪服を乱した男――年齢は恐らく40代手前程度――が飛び込んできた。 「今頃来るなよ、司」 自称親戚の誰かがそう声をかけた。 「渋滞につかまって…」 「葬儀はもうとっくに終わったぞ」 「あ…」 「今は、誰がこの子を引き取るかで揉めているところだ」 当人の前に揉めている、と断言するなよ。恭平は、堅く拳と唇を握った。 「…この子が、姉さんの?」 「…姉さんって、お前と血の繋がりはないだろ」 「まあな…恭平、こんなギスギスした場所の空気なんか吸いたくないだろ。外のベンチで待ってな」 司、と呼ばれた自称親戚は恭平の手を掴み、有無を言わさず控室の外に連れ出し、ベンチに座らせて、自販機で買ったココアを手渡してから部屋に戻った。部屋にいてもいなくても同じだよ…。恭平はそんなことを考えながらココアを飲んで気を紛らわせたが、まさかその程度で紛れるわけもない。  どのぐらい時間が経ったのか、俯いて座っている恭平の前に誰かが立ち、告げた。 「恭平、わしらももう帰りたい。お前はわしの後で部屋に戻って、施設に行きます、と言え」 「……判りました」 手に持っていた空き缶をゴミ箱に入れ、部屋に戻ると、言われた通りにした。 「皆さんのお手は煩わせません。僕は施設に行きます」 途端に部屋の中はほっと安堵した空気に包まれたのが、それを壊したのは司だった。 「子供に何を言わせるんだ!恭平、誰かにそう言えと言われたんだろ」 「……」 「ここまでもめるんだったらもういい、俺が引き取る!それでいいな!」 途端、恭平は暖かい光に包まれた気分になった。
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