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イーナは泣くことができなかった
部屋から出ずに生活をするようになって半年ばかり経った頃、父親が事故で死んだらしい。
唯一の家族が死んでしまったからには、この籠城も遂に終わって、親戚の何某かが無理やり私をこの部屋から連れ出そうとするのだろうと恐れていたが、慌ただしい気配だけが感じ取れる葬儀がひと通り済んだ頃合いになってもどういうわけか城攻めをする人間は現れず、私は相も変わらず電脳端末と向かい合って生き続けてきたのである。
その生活と呼べるのか甚だ疑わしい生活をノックしたのは、一体のアンドロイドだった。
「ご主人さまのお爺さまから共同生活をするようにと言いつけられて参りました」
扉の隙間から差し出された紙片から浮かび上がったホログラムは、最新型のメイド型アンドロイドの姿を映し出してそう言った。
世話をしに来たと言わないのは祖父なりの配慮なのだろう。
身内に世話を焼かれるよりは気楽だなと考え、私は彼女をチャットルームに招待して、型通りのインテークをすることにした。
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