イーナは泣くことができなかった

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「私はイーナでもシューニャでもなくなるの。それは決まっていて、取り消すことができないの。そしたら私は誰になればいいんだろう」 「イーナさまは私のご主人さまです。何が変わっても、それだけは変わりません」 「でも、ずっとそれじゃだめなんだ。いつかはフィーラから離れて新しい仕事に就くことが、私には求められているんだ」 「イーナさまがお仕事に出ている間、留守を守るのも私の仕事です」 「ありがとう。でも分かってるでしょ。私の仕事は、そういうのじゃないって。ずっとこの家にはいられないって」  私が聞くと、フィーラは押し黙ってしまった。  私の境遇について言及することを禁止されているのだろう。  ゆっくりと扉を開け、悲しそうに私を見つめるフィーラの顔を見上げる。 「私、お父さんのこと、好きになれなかった。愛情なんて、わからなかった」  養子アンドロイドなのに。  それは言葉にできなかった。
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