死の知らせ。

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「死神は命を奪いにくる」と、いつか誰かが言っていた。でも、実際はそうじゃない。死神は死期を知らせにくるのだ。 現に、彼らは部屋の隅でじっと待っていてくれる。奪うのではなく、もうすぐだからと準備をしているのだ。 僕はベッドの上から彼を見つめていた。黒を身にまとい、鎌を持ったその姿は、想像するそれと一致した。 彼は一昨日からそこにいる。いつの間にかそこにいて、他の誰にも見えていないらしい。見舞いに来る友人らは、みな口をそろえて「何もいない」と答えるのだから。 想像上の存在だと思っていた彼らに出会えた喜びを感じ、同時にもうすぐ死ぬのだと悟った。 まぁ、なんともくだらない人生だったなと振り返る。大人になれば何でもできると思っていた子供の頃が懐かしい。 あの頃の僕が今ここにいたなら、きっとこの状況でさえ楽しむのだろう。 そういえば、死神は死ぬどのくらい前に来るのだろうか。明日には死ぬのだろうか。このまま眠ってしまえば、もう2度と目を覚ますことはないのだろうか。……まぁ、今死んでも何も悔いはないけれど。 そのまま僕の意識は落ちていった。 覚悟を決め、眠りについた僕への嫌味のように、僕の朝はやってきた。 眩しい日差しが目に入る。思わず目をつぶった僕は、いつかの記憶がフラッシュバックした。 それは忘れていた記憶。学生時代、親と喧嘩をして、親に散々文句を言った日だ。そのあと、何事もなかったかのように接する親に流され、謝ることも出来なかった。 ハッと目を開けると、視界の隅に彼はいた。心なしか昨日より近づいている気がする。 その日の夜も、僕は覚悟を決め眠りについた。 ……なのに、結局僕の朝はやってきた。 いくら覚悟を決めても、次の日がやって来ることに、僕の覚悟は去っていった。残ったのは、あの死神の存在についての興味だけ。 僕は彼へ話しかけることにした。 「あなたは死神?」 返事はなかったが、彼は持っていた鎌を握りなおした。僕に同情でもしたのだろうか。 僕は少し微笑むと、また眠りについた。 そして僕の朝はやってきた。 いつもの変わらない朝に、僕は笑顔を向ける。これが普通なのだ。 彼が死神だからと言って、何もすぐに命が尽きるわけではないらしい。もう少し今の僕を楽しむことにした。 好きなものを食べ、好きな本を読んだ。それは、とても楽しい時間だった。 ふと、昨日よりも彼が僕へ近づいていることに気がついた。昨日のあれは気のせいではなかったらしい。 それでも、彼とは目が合わない。 僕は彼の顔を覗き込んだ。だが、黒で身を包んでいるためか、よく顔は見えなかった。彼の顔をどうしたら見れるかと考えているうちに、僕は眠ってしまっていた。 そして、僕の朝はやってきた。 結局、彼が現れてから1週間が経ってしまった。死神とはどのくらい前に現れるのだろうか。 彼は僕の隣までやってきていたが、やはり顔は見えない。僕は起こしていた体をベッドに預けた。すると、丁度この角度は彼の顔がよく見えた。 その顔には見覚えがあった。彼は……。 そこで僕の意識は途切れてしまった。そして、僕はもう目を覚まさないだろう。 だって、僕は今、自分の姿を見下ろしているんだから。
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