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PROLOGUE
穏やかな風が街を突き抜ける。
雲ひとつなく、透き通る青い空の下、人々の喧騒から離れたところに一つの人影があった。
ここはアメリア共和国、首都パルティアを一望できる丘の上。
一面草原で、今日のような晴れた日には太陽の光が草木を反射して、美しい色合いを見ることができる。
そんな中、この風景に似つかわしくない一人の女性が立っていた。
あまり立派とは言えない様相とは別に、異彩とも言えるオーラーを放っている。
「今日もパルティアはきれいですよ」
そう言い、木陰の下にひっそりと佇んでいる、ある墓標の前まで、ゆっくりと歩く。
名もないその墓標は、ひと目をはばかられるようにそこに存在し、あまりにも簡素に作られているので、これは墓標なのか、何かの目印なのか普通の人はわからない。
しかし、この女性は知っている。
この下に、ある男が残した、悲しくも優しい残留思念があることを。
人や物も、いつかは消えてなくなる。
ただ、その人が強く何かを思った瞬間瞬間を、死ぬ直前に記録し、残すことができる。
それが残留思念とよばれているものだ。
人によっては、最後の自己表現(La dernière expression de soi)という人もいる。
女性は、墓標のそばに立っている赤いザクロの木に、静かに寄りかかり、
追憶を始めた。
この物語は、自らの運命に抗い続けた人々の追想を紡ぐ物語である。
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