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屋台は大盛況で、スタートダッシュに乗り遅れた分も巻き返せたみたいだと佐々倉くんから連絡が来た。
よかったと胸を撫でおろす。みんなで頑張ってきたことがこうして形になることは、こんなに嬉しいものなんだ。
「遠藤、ちょっと」
今度は高井戸先生に呼ばれて行くと、二十代くらいの女性が一緒にいた。高井戸先生と一緒にいるということは、ここの卒業生だろうか。
「前に話した、動画を撮ったほうがいいって言ってくれた卒業生の星野」
「こんにちは」
星野さんという女性は唇で緩やかなカーブを描いて微笑む。
「こんにちは、星野先輩」
この人が先を見通すような頭のいい先輩みたいだ。色素の薄い大きな瞳が特徴的な綺麗な人だ。
「あなたがリーダーだったのね」
「え……?」
「ここは変わらないわね」
懐かしむように辺りを見渡す星野先輩の姿を見つめていると、記憶の中の何かが引っかかった。どこかで見たことがある気がする。
高井戸先生は星野先輩と少し会話をすると、他の先生に呼ばれて何処かへ行ってしまった。
星野先輩の視線がゆっくりと私に向けられる。やっぱり私はこの目を知っている気がした。それにこの声にも聞き覚えがある。
「あのときよりも表情が明るくなった気がするわ」
「え……?」
「運命の手はとったのかしら。それともこれから? けどもう今のあなたなら大丈夫ね」
「え……あ!」
口元を手で覆った女性を見て、新宿の地下で出会った占い師を思い出した。色素の薄い大きな瞳と声がそっくりだ。
「もしかして、あのときの!」
「時々あの場所で占いのバイトをしているの。よかったらまた来てね。遠藤彩さん」
ひらりと手を振って、星野先輩は人ごみの中に消えていく。目を凝らしても、彼女の姿はもう追えなかった。
まさかあの占い師が先輩だったなんて、すごい偶然だ。
そして言われたことを思い返す。
私にとっての運命の手は————
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