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私の態度を不快に思ったのかもしれない。表情を引き締めて、背筋を伸ばす。
5センチ角の白い紙とペンを渡される。
占い師の人の爪は綺麗なネイルが施されていて、星の模様が描かれていた。人差し指にはめられた指輪も星のモチーフがついている。
「こちらの紙に名前と生年月日を書いてもらっていいかしら」
央介は言われた通りにすらすらと自分のことを書いていく。占いとはいえ、個人情報を初対面の人に残る形で渡すのは少し抵抗があった。
私の戸惑いを察したのか、占い師は目を細めて優しい口調で話しかけてくる。
「その紙は占いに使うだけだから、最後は本人に持って帰ってもらうので安心して」
「……はい」
個人情報を書くのは少し抵抗があったけれど、自分で回収していいのなら大丈夫だろうと胸を撫で下ろす。
自分の名前と生年月日を書いて占い師に手渡すと、二枚の紙をじっくりと舐めるように見ていた占い師は央介に視線を移した。さっそく占いが始まっているようだ。
「アクティブで楽しいことが好きでしょう。ああ、それと飽き性ね。ひとつのことが長く続かないでしょう」
央介は身を乗り出して、当たっていると言って笑う。占いを信じていないとはいえ、当たっているなと私も思ってしまった。
央介はアクティブで男友達といろんなところに出かけているらしい。それに飽きっぽいという点も思い当たることがいくつもある。私と出かけても、すぐ「飽きたから帰ろう」と言ってくるのだ。
付き合って一週間くらいは毎日連絡をくれたのに、今では三日に一回のペースで連絡をくれても明日の予定を聞くくらいだった。最初の一週間の濃密なメッセージのやり取りなんて見る影もない。
占いなんて相手の言動や表情などから読み取って話しているだけだ。そう思いながらも占い師の言葉は当たっていることばかりで、プロだなぁと感心してしまう。
「貴方は……」
占い師の視線が私に向けられて、どきりとした。
なにを言われるのだろうと身構えながらも、きっと当たり障りないことのはずだと考えて気持ちを落ち着かせる。どうせ本当に視えているはずなんてない。
「心がとても暗い場所にあるわね。誰にも言えないことを抱えているでしょう」
「は……?」
目を見開き、思わず声が漏れた。
ありえない。私は名前と生年月日を教えただけだ。今までだって会ったことないはずだ。
「このままだと心が死んでしまうわよ」
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