171人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
「あ、あの……」
「苦しいことがあっても、あまり思いつめてはダメよ」
どうしてこの人に見透かされているのだろう。私の心が暗い場所にあることや、誰にも言えないこと。適当に話しているだけだろうか。
「ああ、それとね。貴方の運命を変える出来事が起こるわ。その時が来たら、その人の手を取りなさい」
その人が誰なのかはわからない。央介の方を見ると、にやにやしている。きっと私に対する占い結果が当たっていないと思っているのだろう。
私の方は落ち着かなかった。心臓がバクバクしている。必死に隠していた自分の心の内を見透かされるなんて思いもしなかった。
私の表情から読み取れる要素なんてあったのだろうか。それともただの偶然?
占いが終わって席を立った瞬間、占い師が小さな声で一言発した。
「運命の人ではないわよ」
振り返ると占い師は目をわずかに細めてから、横目で央介を見る。つまりは私の運命の人は央介ではないと言いたいのだろう。
けれどそれを言われても私は腹が立たなかった。自分自身もわかっている。
運命の人なんて夢見がちなことを信じていないのもあるけれど、たとえ運命というものがあったとしてもその相手が央介だとは思っていない。
だって彼は————
「彩のことはあんま当たってねぇな」
笑いながら央介は片手で携帯電話をいじっている。ちらりと見えた画面にはSNSが見えた。きっと占いをしてきたことに関して投稿しているのだろう。
「思い悩むタイプじゃねぇのになぁ」
「そうだねー」
央介はなにもわかっていない。私に悩みなんてあるはずがないと笑っている。まあそれもそうかと思いながら笑い返す。
だって彼にはなにも話していない。私の心はボロボロで、悲鳴を上げていることも、居場所や愛に飢えていることも、彼はなにも知らない。
それでも彼が私を好きだと言ってくれるのなら、必要としてくれるのならそれでもいいと思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!