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「マキ、入るぞ」
ノックもそこそこに、ヨウイチが入ってきた。
「ちょっと! 勝手に入ってこないで」
「うおっ、ごめんごめんっ」
感情的だった私に驚いたヨウイチは慌ててドアを閉めた。"光"は私に隠れて見えていなかったはず。部屋が明るかったのも幸いした。
「用件は?」
ドア越しに語りかける。
「たまには出かけない? 気分転換に。新しい発見があるかもってさ」
発見ね。ヨウイチに誘われて、外に出る。
ソーラーバッテリーで走る自動車に乗って、ぐるりと村を一周する。全体をゆっくり回っても、車なら一時間弱で回れる。
発見。変わり映えのない村で新しい発見なんてあるはずもなく、ただのドライブ。
「昨日はどこに行ってたの?」
「どこって『月山』。突然走りたくなる衝動的欲求に突き動かされたの」
「ふぅん。マキらしいね」
分かっているのかいなのか。前を見て運転するヨウイチの横顔を、ちらっとだけ見て私は空を見た。
今日も空は快晴だ。
噂をすれば。ではないが、月山が見えてきた。私が何を調べていたのか、ヨウイチは気になっていたのかもしれない。
「あのトンネルの向こうは」
私がつぶやくと、ヨウイチは困ったような怒ったような感情で顔を歪めた。
「"町"には僕らの求めるものなんて、何もないよ」
と悟ったように言う。私は返事をせず、果ての見えない トンネルを眺めた。
帰宅後、"光"は弱った様子もなく元気そうだった。
「ただいま」
語り掛けてみたけれど返事もない。意思の疎通は難しそうだ。
「マキ、入るよ」
ドアが開かれた。昨日からヨウイチはドアのノックが疎かになっている。
「ノックは?」
「ごめん、忘れてた。何か作業していた?」
「ううん違うけど」
「ならいいじゃないか。それそとも何か、隠していることでもあるの?」
勘ぐるように言われる。
あるわ。あなたほどじゃないけど。
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