星落ちる帝都

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皆、幸せそうな顔をしているだろうな。 そう思って地上を覗き込み絶句した。 至る所から火の手が上がり、道路は詰まった血管のように停滞していた。 風が止んだ。 小さな怒号が空まで聞こえた。 それはとても小さかったが死の音がした。 ここからでも文字が見える大型ビジョンには 「帝都で死者行方不明者10万人」 という見出しのニュースが国営放送のアナウンサーの澄んだ声と共に届いてきた。 どうやら、原因不明の停電のせいで交通事故、病院の設備の不調による事故などが重なった結果らしい。 夜空を見上げる余裕のある人は、一人たりともいなかった。 そして、その原因は紛れもなく 「わ、わたしのせい……?」 「あーあ。君が光を奪うから」 「え?」 振り返ると、ヘリポートとビルを繋ぐ階段から見覚えのある男が現れた。 長身痩躯のスーツ姿にサングラス。それだけで異質さを感じさせるのに、彼は魔術道具の売人を自称していた。 「君がこんなことしなければ、あの人たちみんな死なずに済んだのに」 「わ、わたしはあんたから買ったこの『光を求める試験管』を使っただけよ!責任は全部あんたにある!」 反射的に私は言い返していた。 だが、絞り出した声は自分でもわかるほどに上ずり、震えていた。 それを見た売人は呆れたように溜息をつきながら低い声で 「過失だから許されるとでも思ってんの? 大体、少し考えれば分かったでしょ。こんなもの現代の大都会で使ったらどんなことになるかぐらい」 男はこちらに向かって歩き出す。 コツ、コツ、という革靴の出す威圧感が私を後ろにさがらせた。 「そういえばこの国では三人殺せばまず間違いなく死刑って聞いたよ」 「なら、10万人殺した君はどうなるんだろうね」 私の意志とは無関係に、心拍数が上がり、手から冷たい汗がにじみ出る。 一歩、また一歩と下がらされるが、それも限界が来た。 もう逃げられない。 「身勝手な善意は他人を殺すよ」 そんな重い言葉から逃げたい。 その一心で私が取った行動は、飛び降りる事だった。 空中で静止したのもつかの間、重力に引き寄せられ、体はぐんぐんと地面に近づいていく。 空を見上げようとしたが、それは叶わない願いだった。 極限のスローモーションでビル群が視界に入る。 それらはこの街に住む人々を支えるために光を放っていた。 生きるものを祝福する確固たる意思が今の穢れた私には理解出来た。 ああ、この街の光はこんなに綺麗だったのか……。 もっと早く知れれば良かったのに。 そこで意識が暗転した。 「彼女もダメだったか……」 サングラスを外し、男は朝焼けの空を見る。 赤と藍が混じる空には、砂粒のように小さな光が新しく現れた。
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