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手の中には試験管が握られている。ただし、その口にはゴム栓の代わりに古い電灯のスイッチのような小さいボタンが付けられている。
その手に持ったスイッチを、カチカチと押す。
部屋の中の照明を切るように。
するとどうだろう。 目の前のビルから光が消え、代わりに試験管の中に小さな光球が現れた。
「ふふ」
自然と溢れる笑みはこの街に来てから最上のものだった。
ヘリポートで私は踊る。ダンスなど習っていなかったから感情の赴くままに手と足を動かす。
でも結構様になってるでしょ?
激しい風と踊りが同化する。
そのリズムに合わせるように帝都から光が絡め取られる。
ひとつ。ふたつ。みっつ。
世界は徐々に暗さを増して、故郷の光景に近づいていく。ああ、もうすぐ。もうすぐだ。
「ふっ」
最後のロウソクが吹き消された。
ようやく、我慢していた空に届く。
見上げるとそこには天の光が見えた。
成層圏程の広さの真っ黒なカーテンの布地に、河原から拾ってきた透明な小さい砂礫だけ広げたような光景。
ルビーのように輝くはオリオンのベテルギウス。
一際輝くダイヤモンドは?大犬のシリウス。
ああ!砂礫などとは比べ物にならないオパール!
それは地球の恋人!
月はとても美しく輝いていた。瞬く星とは違い不動の存在。ああ、手が届きそう。
今日の帝都は最高だ。
地上にいる愚かな人間たちも気がついたでしょう。
この空にある星がどれだけ綺麗だったのかを。
地上にいる人たちが、空を見て惚けている姿をこの目で見たかったが、街の灯りはまだ戻さない。
私は彼らに思い出して欲しかったのだ。
自分たちの失ってしまった光を。
さあ、時間が許す限り、星を数えましょう!
皆がこの天の物語を楽しめるように!
ひとつ、ふたつ、みっつ。
時間はいくらでもある。
いくらでも数えられる。星の数は不思議なことに 今まで生きていた人の数の合計と同じくらいらしい。
だから私は数え続ける。彼らの生き方の可能性を見るがごとく。
だがそれにもやがて終わりが来る。
空がしらみ始めた。
最も明るい星である太陽が真東から上まであと数時間。残念だけれどスイッチを「入れる」
すると、試験管の中の無数の光球が弾け飛び、帝都の地上に吸い込まれていく。
地上には明かりが戻り、早朝だというのに太陽よりも明るかった。
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