トンネル

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______何か話を聞かせてくれないか。 いきなりだね、そうだな......ならトンネルの話をするよ、あれは多分小学校2、3年生くらいだったかな。父親と一緒に祖父母の実家から帰るとき......いや、向かうときだったかな。まあそれは良いとして道中でトンネルを通ったんだよ。もちろん車で、僕は後部座席で退屈そうに横になってたよ。窓から見えるオレンジ色の明かりが線になって流れていくのを見ながら父親に話しかけてたよ。 「あとどれくらいで着くの?」 「まだ時間がかかる」 「どうしてお爺ちゃん家行くの?家で待つのはダメだったの?」 「お見舞いに行くんだ」 「ねぇ、待つのはダメだったの?」 「お見舞いに行くんだ」 「ねぇ、待つのはダメだったの?」 「心配だったんだ」 そんな感じでさ、つまらないから横になりながら窓の外を見てたよ、オレンジ色の明かりが線になってたなぁ。それを見るのもすぐに飽きてシートに目線を写したら蝿が死んでたよ、なぜかは分からないけどとても綺麗だと思ったんだ。それからどれくらいか経って、それでもトンネルは終わらなくて父親に聞いたんだよ。 「あとどれくらいで着くの?」 「まだ時間がかかる」 「さっきも聞いたよ、あとどれくらいで着くの?」 「まだ時間がかかる」 「トンネルは終わらないの?」 「まだ時間がかかる」 「お母さんはどうしたの?」 「それは何だ?」 そんな感じでさ、つまらないから横になりながら窓の外を見てたよ、オレンジ色の明かりが線になってたなぁ。それを見るのもすぐに飽きてシートに目線を写したら蝿が死んでたよ。 またそれからどれくらいか経って、それでもトンネルは終わらなくて父親に聞いたんだよ。 「あとどれくらいで着くの?」 「まだ時間がかかる」 「トンネルは終わらないの?」 「まだ時間がかかる」 「......お母さんはどうしたの?」 「お母さんなら寝てるだろ」 そうだった、お母さんは助手席で寝てるんだった。窓の外からはオレンジ色と偶に混ざる白色の明かりが線になってる。それを見るのもすぐに飽きてシートに目線を写したけど何も無かった。光は座席を偶に光らせてる、少し楽しい。 気づいたら僕は少し寝てしまっていて、でもトンネルはまだ終わってなかったんだ。だから父親に聞いたんだ。 「トンネルは続くの?」 「まだ時間がかかる」 「お母さんは寝てる?」 「そうだな」 「トンネルは終わらない」 「いや、終わる」 「終わらせるな」 「終わる」 「終わらせるな!」 「それは君の考えじゃない」 気づいたら僕は少し寝てしまっていて、でもトンネルはまだ終わってなかったんだ。横になりながら窓の外を見てたよ、オレンジ色の明かりが線になってたなぁ。それを見るのもすぐに飽きてシートに目線を写したらお母さんが死んでたよ。真っ赤になっててさ、とても綺麗だと思ったんだ。 「お母さんが死んでる、綺麗だよ」 「君がやったんだ」 「トンネルは終わる?」 「いつか終わるよ」 「お父さん」 「私はお父さんではない」 「お父さん」 「薬は誰から買ったんだ?」 「お父さん」 「駄目だな、これ以上は聴けそうにない」 「トンネルが終わるよ」 出口から白い光が見えてとても怖い。怖いよ。蠅は死んでいた、とても綺麗だったよ。 ______以上をもって診察、および聴取を終了する。 2038年8月16日17時12分44秒 担当者 鴨居 康平
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