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一
お客さんが家にたくさん来ていて、ちょっぴりうるさいなって思ってしまった。気分転換に外に出たぼくは、道路に落ちていた火の玉を拾った。
ごうごうと燃えていたけれど、全然熱くなくて、とても暖かかった。
「きみにはぼくが見えるのか」
ぼくが頷くと、火の玉は嬉しそうにその火を更に燃え上がらせた。眩い光がぼくの周囲を照らす。
火の玉というものは普通宙に浮かんでいるもののはずだ。どうしてこの火の玉は地面に落ちていたんだろう。訊ねると、それは炎を小さくしてぷるぷる震えた。
「落ちてしまったんだ」
落ちた理由は分からない。けれど、おそらく、たぶん、飛び上がろうとする思いが小さいからだ。と火の玉は言った。
いつか仲間達のように自由に飛び回れるといいな。くすぶるように言って、火の玉は沈黙した。燃える体はぼくの手の中で震えている。
「高く飛ぼうと思わないの? 思えば飛べるんじゃないの?」
「自由に飛びたい。でも、人間に怖がられるのが怖いんだ」
きれいな火なのにもったいないな。
「見える人なんてそうそういないし、気にしなくていいと思うよ。みんなで飛んだらきっと楽しいよ」
火の玉はぷるぷる震えたままだ。
見える人間に怖がられて、いじめられている仲間を見たことがある。怖い。怖いよ。でも飛んでみたい。
火の玉は仄かな明かりをぼくの手元に宿しながら、空を見上げた。顔なんて見えないから、ぼくにそう見えただけかもしれない。
「ねえ、その火で、光で、みんなを喜ばせてみない?」
火の玉は驚いたようだった。震えが止まる。
「喜ばせることができるんですか?」
「ああ、できるとも。高く高く、きみを飛ばしてみせよう。今日はお祭りの夜だからね」
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