2人が本棚に入れています
本棚に追加
三
「今の変な花火、オマエの仕業だなあ?」
人混みを離れたぼくの前に、お兄ちゃんが立っていた。
「いなくなったと思って心配したのに、あんなちみっこいのと遊んでたのか。勝手にあんなの打ち上げるし」
「きれいだったでしょう?」
「何人かには見えていたみたいだな」
でも、むやみに力を使うんじゃないぞ。と、こつんと頭を叩かれた。いてて。
「んえー、だって、家に来る人間ばっかり楽しんでてずるいんだもん。ぼくだって少しくらいはしゃいでもいいでしょう? あの子だって喜んでたし」
「喜んでたのかな……。めちゃくちゃびっくりしてそのまま逃げたみたいに見えたけど」
あと、ここはオレ達の家じゃないからな。とお兄ちゃんは溜息をついた。すみっこを借りているだけなんだから。
フランクフルトを持った子供がぼく達の間を走って行った。びっくりした。でも仕方ないね。あの子にはぼく達の姿は見えていないんだから。
「ねえ、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ見ていようよう」
ぼくはお兄ちゃんの手を引っ張って、二人で鳥居の上に登った。後で怒られたらまあ謝ればいいや。そう思いながらてっぺんに辿り着くと、とてもきれいなお姉さんが座っていた。お空のぴかぴかを受けているんじゃなくて、お姉さん本人が光を着ているようだった。
「森に住んでいる子達だね。こんばんは」
お兄ちゃんがすごい勢いでお辞儀をした。ぼくの頭もぐいぐい押す。
「かしこまらなくていいよ。今日はお祭りだもの。わたしの家にたくさんお客さんが来ているんだ」
きみ達はわたしの家族みたいなものだから、ここで一緒にお客さん達を見ていていいよ、とお姉さんは言う。お兄ちゃんは恐れ多いと言って全身の毛をびりびりさせた。
「いいんだよ。ああ、ほらごらん。お客さん達にはなかなか見えないものが来たよ」
お姉さんが空を指差した。小さな光がいくつも集まって飛んでいる。
見ていて。と火の玉の声が聞こえた気がした。
たくさんの火の玉が空一杯に大きな大きな花を咲かせる。みんなと一緒に飛んだらやっぱりすてきだったでしょう?
ぱん、ぱーん。といくつも花が咲く。
優しい光を浴びながら、ぼくは「ありがとう」というあの子の声を聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!