1/1
前へ
/3ページ
次へ

「今の変な花火、オマエの仕業だなあ?」  人混みを離れたぼくの前に、お兄ちゃんが立っていた。 「いなくなったと思って心配したのに、あんなちみっこいのと遊んでたのか。勝手にあんなの打ち上げるし」 「きれいだったでしょう?」 「何人かには見えていたみたいだな」  でも、むやみに力を使うんじゃないぞ。と、こつんと頭を叩かれた。いてて。 「んえー、だって、家に来る人間ばっかり楽しんでてずるいんだもん。ぼくだって少しくらいはしゃいでもいいでしょう? あの子だって喜んでたし」 「喜んでたのかな……。めちゃくちゃびっくりしてそのまま逃げたみたいに見えたけど」  あと、ここはオレ達の家じゃないからな。とお兄ちゃんは溜息をついた。すみっこを借りているだけなんだから。  フランクフルトを持った子供がぼく達の間を走って行った。びっくりした。でも仕方ないね。あの子にはぼく達の姿は見えていないんだから。 「ねえ、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ見ていようよう」  ぼくはお兄ちゃんの手を引っ張って、二人で鳥居の上に登った。後で怒られたらまあ謝ればいいや。そう思いながらてっぺんに辿り着くと、とてもきれいなお姉さんが座っていた。お空のぴかぴかを受けているんじゃなくて、お姉さん本人が光を着ているようだった。 「森に住んでいる子達だね。こんばんは」  お兄ちゃんがすごい勢いでお辞儀をした。ぼくの頭もぐいぐい押す。 「かしこまらなくていいよ。今日はお祭りだもの。わたしの家にたくさんお客さんが来ているんだ」  きみ達はわたしの家族みたいなものだから、ここで一緒にお客さん達を見ていていいよ、とお姉さんは言う。お兄ちゃんは恐れ多いと言って全身の毛をびりびりさせた。 「いいんだよ。ああ、ほらごらん。お客さん達にはなかなか見えないものが来たよ」  お姉さんが空を指差した。小さな光がいくつも集まって飛んでいる。  見ていて。と火の玉の声が聞こえた気がした。  たくさんの火の玉が空一杯に大きな大きな花を咲かせる。みんなと一緒に飛んだらやっぱりすてきだったでしょう?  ぱん、ぱーん。といくつも花が咲く。  優しい光を浴びながら、ぼくは「ありがとう」というあの子の声を聞いた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加