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「映画、面白かったねー!」
飛鳥が選んだのは恋愛物の映画で、何となくぼーっと見ていたのにバチバチと何度も記憶の断片を思い出してそれどころではなかった。
「うん、よかったよ」
「なにー当たり障りないこと言ってー」
またふてくされ始めた飛鳥の頭を撫でながらなだめ、ショッピングセンター屋上の人が少ないエリアへ移動した。夕焼けが綺麗で、記憶を無くした日の帰り道を思い出した。
「こんなところに連れてきて、どうしたの蒼汰」
「いやね、飛鳥に言っておきたいことがあってさ、記憶を無くした僕の面倒見てくれて本当に嬉しくて……今日も一緒にショッピングセンターで記憶探ししてくれたし……」
照れ臭そうに手すりにもたれかかり夕陽を眺めながらそう言った、冷たいそよ風が僕達の制服を揺らめかせる。
「さっきの映画も僕に合わせて選んでくれたんだよね、おかげでいろいろ思い出せたよ。ありがとう飛鳥、好きだよ」
ふわっと風が草木を揺らす。振り向いた先の飛鳥の表情はぽわっと赤く染まっていてかわいらしかった。
「本当に思い出したの……?」
無言で僕は飛鳥に歩み寄り、ぎゅっと抱きしめ、ほぼ同時に僕の腕が光り輝く。
「…………もう」
飛鳥がぎゅっと抱きしめ返してくる、飛鳥の体温を感じられて少し心がふわっと浮かぶようだがそれどころではない気がする。手首で光る腕輪が何か悪いことを予兆させていた。
遠くの音が聞こえる、シャッターの閉まる音、駆け足で迫る集団。飛鳥を抱きしめたまま、ただその時を待つことしかできなかった。
「学生だね、おとなしくこっちに来てくれないかな?」
全身黒い防護スーツを着た大人が、抱き合う僕達の前に現れた。
飛鳥がそれに気づいて僕から離れる。紅潮した表情が冷めて、緊張で脈拍が早まる。
「これは……何なんですか?」
僕は腕を突き出す。
「それは『光』の証だよ、さあこっちに来るんだ」
「『光』って何なんですか!? 何で軍隊が……シャッターまで閉める必要はないでしょう!?」
黒い防護スーツを着た大人がアイコンタクトを取り合い、僕と飛鳥に銃を向けた。
「なんで銃を向けるんですか!?」
「それは、『光』だからだよ」
焦りで額に汗が垂れる。どうしようもない僕と飛鳥に『光』は何かを差し伸べてくれるのか、光る腕輪を見つめどうしようもない感情を抱くが『光』が僕に教えてくれた。
「撃て」
叫び声を上げる飛鳥を守るように僕は銃口に手をかざした。
放たれた銃弾は僕の『光』によって防がれ、パラパラと地面に落下した。『光』は僕に次なる武器を与え、目の前の黒い防護スーツを着た大人を薙ぎ払えと訴えかけている。そのシグナルを無視して僕は飛鳥を連れて屋上のさらに奥へ逃げ込んだ。
「あの兵士何なんだよ……!!」
「蒼汰……」
不安そうな表情でついてくる飛鳥に、僕は優しい笑みを返そうと努力した。
「大丈夫だよ。僕も飛鳥も無事逃げられるよ」
「蒼汰、ごめんっ! 蒼汰がどこまで知っているのか分からないけれど……」
『光』を駆使してショッピングセンターの本当の屋上、誰も来れないであろう場所に逃げ込んだ。この後どうすればいいのかなんてわからない、やってきた黒い防護スーツを着た大人を闇雲に『光』で撃てば助かる、そう慢心していた。
「どこまでって、何も……思い出す記憶も飛鳥との楽しい思い出ばかりで……」
「やめてよ…………『光』は『闇』に対する最後の希望、蒼汰がいないと世界が困るんだって……」
「そんな……他に『光』はいないのかよ!?」
「いるよ! でも、蒼汰がいないとダメなんだって」
顔を真っ青にさせながら僕は黙々と飛鳥の話を聞くしかなかった。それ以上に人類の最後の希望と言われて僕は人類に対して何の感情も抱いていなかった。
「飛鳥は……僕が守った地球に住みたい?」
飛鳥の表情は硬く、しかし涙は浮かべてはいなかった。
「住みたいな……蒼汰の守った地球、素敵」
体中の力が抜ける。膝から崩れ落ち、固い地面に当たって痛い。夕焼けが沈み月が夜闇を照らす時間がやってきた。僕は黒い防護スーツを着た大人の元へと向かおうとした。
「私ね、『闇』なんだ……人類の敵なの」
「『闇』……?」
「人類を乗っ取ろうとしている悪い奴、でもね……好きになっちゃったの。『光』の人間を」
不自然な笑みを浮かべてしまう。ゆっくりと立ち上がり飛鳥の目をじっと見つめた。
「辛そうな蒼汰を見ているのが辛かったから、楽にしてあげたの」
「僕、そんなにひどかったの」
「違うの! 蒼汰は素敵だよ! でもあの日突然ね、記憶を消してって……」
僕は無意識で飛鳥を抱きしめた。ぎゅっと、寂しくないように。
「飛鳥は何も悪くない。…………戦うよ、飛鳥の為に」
「『光』と『闇』の戦いだよ、『闇』が勝ったら朝が来ないんだよ」
「それでも、飛鳥という『光』がいるなら僕は大丈夫」
飛鳥の目から涙が零れ頬を濡らす。
僕は今、黒い防護スーツを着た大人が近づいてきていることを知っている。
「動くな!」
僕は『光』を使い、黒い防護スーツを着た大人へ攻撃する。
「何、なに……?」
不安そうに怯える飛鳥を優しく抱きしめて「もう大丈夫だよ」と声をかけた。
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