DARK LIGHT~闇照らす闇~

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 その日“カミモ・ミハナ”は、暗闇の中に響く音で目を覚ました。彼女達が押し込められた奴隷部屋の土壁が軋むときは“客”もしくは“買い手”が自分達の部屋に来て、 品定めをし、光ある眩しい外の世界に連れ出す時と相場が決まっている。 狂信的宗教武装組織が支配するこの地域では、自分達のような多宗教や外国人達は彼等の “所有物”でしかなく、その人生に選択肢などと言った自由は無い。 両親とも引き離されたミハナは、連中に言わせれば、価値のある商品であり、周りで力なく横たわる女達の中では一番若い。 次に出口である扉があき、光がさす時、誰が連れてかれるのか?彼女達にとって“光”は 決して救いでは無く、自身の姿を隠す“闇”こそが唯一の身を守る手段だった。 土壁を震わす足音がミハナ達の部屋の前で足音が止まる。少しづつ開く扉から漏れる光から逃れるように、栄養失調の女達は立ち上がる事も出来ず、部屋の隅へと体を這いずらせていく。 だが、ミハナは動かなかった。もう、怯えるべき時間はとうに過ぎたと思っていた。ここに 連れてこられてからどれくらいの時が経ったかはわからない。しかし、光から逃げても、 結局は変わらない。ただ、恐怖に怯える時間を伸ばすだけだ。それならばいっそ… 運命に抗う気持ちが彼女の中で芽生えていた。扉が開き、眩しい光が全身を捉えた時、 ミハナは、まっすぐその光に顔を向けていた。 彼女にとって唯一予想外だったのは、光の中に立つ真っ黒い影が発するため息だった。 経験上、ここに来た者は自分達を見つめ、下卑た笑い声を上げるか、組織の人間と値段の 交渉を行うが、影は一つで、その手には大きな銃のようなものが握られている。 影は室内を一通り見回し、一言こう呟いた。 「何だ…思ってたのと違うな。奴隷部屋っていうから、エロ漫画みたいな裸で首輪とか鎖的な、そのあれだ…人間牧場的な18禁ファンタ(?)期待してたのによ?」 かなり理解不能な言葉を発した影は踵を返し、光の中に消えていく。後に残されたミハナ達 の耳に複数の銃声と爆発、悲鳴と怒号が連続して響いた…                 「週刊“コクサイ”特集“救出された少女達”から抜粋」            緊急速報をお伝えします。本日、午後3時45分発信予定の453便が武装した数名のテロリスト達により、ハイジャックされました。犯人達の目的は現在の所、不明です。事態の解決に合わせ、警察、駐留軍が連携し、緊急対策班が設置されたとの事です…                「首都アフターニュース12月22日の報道より…」 「ああ“クリスマスハイジャック”ね。知ってるよ。あの時は驚いたな。戦争とか、テロなんてのはスマホか街頭のテレビ放送を通してのものだと思ってたからね。まさかサンタの代わりにテロリストが来るなんて。ネットも盛り上がってたな。正直、お祭りみたいに 皆、興奮してたよ。ハハハッ…」            「民放特別番組“他人事”より“市民の声”のワンシーン…」 当時、我々警察は何の情報も掴めていなかった。唯一わかっていたのは、テロリスト達は 全員外国人と言う事。人数は6人、全員が短機関銃と拳銃で武装していたと言う事、 これは機内の乗客がスマホを没収される前にSNSで呟いていた事からわかった。            「日刊新潮“無能っ!?彼等が我々の安全を守れるか?” より抜粋」 事件が異常な“解決”を見せ、半年…本来なら、情報公開法を踏まえ、語る事は出来ないが、我々は少しでも情報が欲しい。同盟国は何も語らないし、私の上司も同様だ。 だから、下記に記す記録は全て真実である。これを公開し、このまま闇に消える、いや、 正に、その闇が解決したと言える事件に、一つの光を、真実を見いだせればと思う。                  「某新聞社に寄せられた匿名の手記より… ある、防衛省関係者の告白(以下、同関係者の同文)」 あの日、現場での私の役割は、警察本部と駐留軍の仲介役だった。飛行場に止まった 機の中には258名の乗客が乗っていた。犯人達の正体は…これは駐留軍の情報でわかった事だが“ボゴ・タルタ”と呼ばれる過激派のテロリストグループだった。人数は8人、 武装は旧ソ連製空挺突撃銃、小型ながら小口径の短機関銃とは比べものにならない貫通力と破壊力を持った代物だ。更に全員が腰にC4爆薬のベルトを蒔いていた。 これだけの装備を持ち込んだ彼等の用意周到さを褒めるべきか、それとも我が国の対テロ警戒を嘆くべきかなのかはわからない。 全ては終わった事だ。そして、彼等の目的は多額の報酬と同盟国に囚われている同志の24時間以内の釈放、要求が通らなければ…これは記載しなくとも、わかるだろう。 何故、本国ではなく、我が国で凶行に及んだ理由は、453便に同盟国の、軍事関係の 次官が乗っていたからだ。彼の最近の懸案事項はボゴ・タルタの壊滅。正に ドンピシャの標的だ。 最も、そうでなければ、駐留軍が同盟、いや、植民地の国民救出に本気で乗り出してくる訳もないが… 最初から、我が国の警察では役に立たない事がわかっていた。彼等は右往左往と動くのと電話を繰り返すだけで、テロリストの人数すら把握していなかった。“想定外すぎる事態”に連中が考えていたのは、乗客の安全ではなく、自身の子供の学費と家のローンの事だけだっただろう。 飛行機内に突入し、制圧なんて事が出来る筈もない。次に考えたのは、とゆうより、この 選択肢しかなかったのだが、駐留軍の臨時編成による特殊部隊による攻撃だ。 しかし、リスクが高すぎる。兵隊達は、機内への突入訓練は 受けていなかった。仮に受けていたとしても、自爆用のベルトを撒き、高性能の突撃銃を持ったテロリストを制圧するのは、容易な事ではない。 大勢の犠牲が出る事が予想された。彼等も流石にそれだけは危惧していた。 事件発生から8時間が経過し、要求の時間を延ばす交渉人を立てる案が出たが、 米軍将校の1人が中東でボゴ・タルタが起こした事件経験から、テロリスト達は 自身の出した要求が通らなければ、即座に凶行に出るとの事だった… 何の解決策も無く、時間だけが過ぎていく。そんな時だった。老練の将校の1人が 手持ち無沙汰を憂いて、取った書類の束、乗客リストを見て、声を上げた。 数人の将校が駆け寄り、彼を中心に、とゆうより、我々の目から隠すように、遮り、 慌ただしく何かを喋り始めた。素早い英語と交じるスラングで聞き取りにくかったが、 “暗闇”という、単語と“照らす”という意味の言葉が途切れて聞こえた。 事態が急変したのは、それからだった。 何の理由も説明される事はなく、我々は彼等に注文された“装備”を用意し始めた。警察だけでは足りず、民間にも協力を頼み、必要機材が夜の闇に紛れ、453便の周りに静かに運びこまれた。駐留軍の兵士達がライトを用いたモールス信号で何か合図を送っていた様子も見えた。そして時間発生から10時間が経過した深夜…駐留軍の合図と同時に、機体は 強い光に包まれ、全てが解決した…  集められた投光器、大型照明車の光は窓を開けていた機内を強く照らした… 乗客全員が救出され、その中の1人…“ジェームズ・ホワイト参謀次官”は次のように語っている。 あの時、私はただ、ひたすらに悔いていた。突入してきた8人のテロリスト達は皆、一様に若い。彼等を止めに入ろうとしたスチュワーデスが殴られた時、何も出来ない自分の 頭には、かつて、私が命令し、爆撃させた国が浮かんだ。 あの時、火と瓦礫から逃げ惑った子供達が、頭上を飛ぶ戦闘機に刻まれた星条旗を見て、 憎しみを募らせ、育み、今、この場に立っている。 私にとっては、内容に目を通し、ハンコウを押すだけの仕事…それが負う責任を理解していなかった。全ては自分、いや、自分達が招いた結果と、目の前に突き付けられた現実により、 ようやく理解した。彼等が我々に宣言した命の残り時間は刻々と過ぎていく。 テロリスト達は私の存在をきちんと認識、初めから私を狙っていた事もわかっている。後はただひたすらに処刑の、何も知らなかった自身への裁きを待つだけだった… “しけた面だな、大将?” 初め、その声はテロリストの1人かと思った。隣に座った(私の席は他の乗客と離され、隔離されていた)男は東洋人、いや、白人とも黒人とも言えそうな顔だった。ただ、目元に走った2本の切り傷と着古したフライトコート(空挺服)を含め、全体的に黒い印象だった。 私を見張るテロリストの姿は無かった。後でわかった事だが、相手は既にトイレで 殺されていた。 ニヤニヤ笑う男の訪問は状況も踏まえ、決して歓迎出来るモノでは無かったが、自身の罪を 神父に告白するように私は彼と話をした。 今まで自分が行ってきた愚行とも言える行為、ただ、食事前や家族との約束を遮る厄介事のように、書類仕事を行い、許可してきた。戦闘の映像を“仕事中の息抜き”の気持ちで 同僚達と話した事もある。 全てぶちまけた。目の前に脅威が、銃を突きつけられて初めて理解できた事もだ… 男は最初の最後まで笑って話を聞いていた。だが、全てが終わると、一言言った。 “いいじゃねぇか、それでも” 私は男の反応に驚いた。正直、予想していない返答だった。男は笑って続ける。 “何だ?その顔、罵倒が希望か?それとも憐み?アンタ、マゾか?馬鹿らしい。 タイムマシンはねぇぞ?今更、後悔したって意味なしだろ? そんなに腐るこたぁねぇ、社会ってのは、大抵誰かの犠牲の上にって感じで、 重なりあって成り立ってるモンだろうが。お前のやった事は一側面から見れば、ヒデェ話だ。 だけど、それに救われた奴等もいるって事も忘れちゃならねぇ。 世の中、皮肉なバランスで丁度いい。今回はたまたま、 そのヒデェ方が表に出たってだけだ。だが、覚えておけよ。これからはその側面を充分理解した上で仕事する事をな?“ 男はひとしきり喋ると、満足したように立ち上がった。“何処へ”と尋ねる私に彼は口を歪ませ“時間だ”と呟き、そのすぐ後に、機内全てと私の目を光が包みこんだ。 視界が戻った時、 “助かった” と叫ぶ乗客達と床に転がるテロリスト達の死骸に悲鳴を上げる声が 渦巻いていた。彼の姿は無かった。後で関係各位に調べさせたが、見つける事は出来なかった。 幻ではない。私は覚えている。あの光に全てが包まれた時、私は確かに見た。 閃光の中でなお、黒い影を纏う、あの男の姿を… オ・ト・ハ・ダ・メ・ヒ・カ・リ・モ・ト・ム                        「空港付近在住の住民が目撃した 453便からの点滅光、解読文」 テロ制圧に光を用いたのは、有効な手段だと思います。79年のルフトハンザ空港でのハイジャック事件の際も、機内突入の際にはスタングレネード(閃光手榴弾)が使われました。 ただし、この時は音と光で相手の意識を奪う事に成功しましたが、昨今の常時雑音、騒音の環境に置かれている人間にとっては、激しい音に体が反応し、銃を乱射してしまった例もあり、現在では危険な手段にもなりつつあります。 その点、光のみという点では、自身の視界が塞がれるという恐怖と不安からの発砲も心配されますが、音に対する条件反射的のように体を動かす事がありません。数秒、ほんの1秒ですが、確実に相手の動きを止める事ができます。制圧者が光のみを希望したのは正しい選択だと考え、余程、実戦、理論ではなく実際の戦闘を経験している人物だと思います。 まぁ、8人、1人は殺されていたので、7人ですか?7人の武装し、各所に散らばる人間を、銃を用いず、7秒で殺害出来る人物、人物達など聞いた事がありませんがね。 ジプチでのフランス特殊部隊GIGNが行った複数標的同時射撃なら可能かもしれませんが、 あれはバスの中でしたしね…                           「ある、軍事専門家の一考察…」 453便のテロ事件における事後報告 武装過激派組織ボゴ・タルタのテロリスト8人死亡、人質である乗客258名は全員無事。 テロリスト達は頭部を何か固いモノで砕かれ、死亡。銃弾は発射されなかった。ただし、 機内入口付近にいた1人の手にはナイフが握られており、 そのナイフには彼や人質以外の血が付着… 血のDNA鑑定は現在確認中(その後、駐留軍からは一切、血液についての連絡がない)                                「453便事件以後、同盟国より提出された“あまりにも簡易的な資料”より抜粋」 そうですね。あの日は、えーっと確かバイトが終わって、店の子達とファミレスでも行こうって話になってました。とにかく、その日はもう、白み始めた空を見上げながら“もう今年も終わりだね?”って、話してました。そしたら久美ちゃんが、あっ、店で働く1人です。 通りをふらついている人を見かけたんです。皆、酔っ払いだから気にするなって言ったんですけど、久美ちゃん、看護士の資格勉強してたから、あの歩き方は怪我だって言って、 聞かなくて、仕方ないから、皆でその人の所に駆け寄ったんです… 何か、古臭いコートを着た人です。顔は覚えてないな。全体的に黒っぽい印象だったんですよ。でも、あれだ。片目のどっちかに走った切り傷みたいなのが、印象的でした。 皆で持ち上げてみたら、お腹の所の服が血に染みていて、もうビックリしちゃって、朝っぱらからきゃー、きゃー騒いじゃいました。久美ちゃんだけが冷静で、 自分のハンカチを出して血に当てて、手当をっ…て、そしたら、その人が笑いだして。 “ありがとう、感謝するぜ、お嬢さん方、こんな美女達に囲まれたのはいつ以来かな?” なんて、陽気に喋りながら、立ち上がって、そのまま私達から離れて、どっかに 行ってしまいました。後日、久美ちゃんの所に新しいハンカチが届けられたそうです。 それもすっごく高級なヤツ。あの人が何者なのかは知りませんけど、でも悪い人には見えませんでした。いや、刺されてましたけどね。ははっ… 第2次世界大戦終了後、世界を一瞬で壊滅させる兵器が多数登場しました。そして、冷戦の 崩壊により、それらが第三国、大国に増悪を持つ者達に供給された結果、統計上で言えば、 人類はとっくに滅びている事になります。                        「ある統計学者の持論より抜粋」 「ハハッ、俺達はよ…つっ、いてーな、もっとモルヒネをくれよ。看護婦さん。えっ?もう 適量打った?だったら、俺は死ぬな。ははっ…いや、当然だな。悪い事いっぱいしてきた。 いや、悪い事するしかなかった。俺達の国ではな。俺の兄弟も、友達も皆、同じ事やってたからよ。でも、それしかなかったんだよ。本当に… とにかく、その日、俺達は〇×(国名及び地名は記載上、伏せておく)の国境地帯で狩りを やってた。おたく等、平和維持軍が勤務してる目と鼻の先でよ。知ってたんだろ? くたばった隊長が言ってたぜ?“アイツ等は面倒事には首を突っ込まない、死にたくないし、 兵隊達の勤務、労働条件、コンプラなんとかに乗っ取っているからな”ってさ。だから、俺達は難民キャンプを襲った。異民族共を浄化するためにな。 護衛なんていやしねぇ。好き放題さ。スコープ無しの小銃だって、楽に当たる。キャンプ内に突入するのもいいし、外から射撃ゲームをしたっていい。ゲームの内容は簡単。赤十字の 真っ白テントに銃弾を撃ち込むんだ。パッとテントが赤くなったら、当たりーってな。 日中は太陽の光が照らし、夜は国連の馬鹿どもが用意した投光器の光が俺達の狩りを助けた。所詮、難民共には戸籍もねぇ、女も男も子供もいくら殺しても誰も気にしないからよ。 だから、その日も…つつぅっー、痛みが、思い出してきやがった。クソッ、糞ッタレ… 〇×参▽□(非常に汚いスラング)あーっ、あれだ。おんなじように狩りを始めようとしたら、ガキがこっちに向かって走ってきやがった。何か叫んでた… 何だっけ?そうだ、言葉わかるやつが言ってた。 “お前等、そんなに殺したいなら、僕を殺せ!殺して、それで、皆を殺さないで” 笑ったよ。ゲラゲラ笑ってやった。馬鹿なヤツだ。だから、すぐに殺すのは勿体ない。 もうちっと鳴かせようって、隊長が笑って、そんで隊長の口から上半分が吹っ飛んで… 子供の後ろから飛び出した真っ黒い奴が俺達全員を殺した…真っ黒いのがおれ… (この直後に死亡。)                        「あるゲリラ部隊の兵士の証言…」 これはオフレコですが、仕事の内容と自身の住む国の情勢から、空港の旅客リストは 軍の諜報機関が検閲する事になっています。大抵は何も問題ありません。 ですが、その時は違いました。 ギセキ、ギセキ・ソージ…確か日本の方の名前だったと思います。ええっ漢字です。 その読み方はわかりませんでしたけど、私が勤務してから、軍の担当官が驚いた名前はその時だけでしたね。はいっ…                        「某国空港検閲官の証言…」 久美ちゃんのハンカチの送り主の名前?えーっと、確か犠隻 争侍(ぎせき そうじ)って 書いてありました。よくわからないし、何か、凄い名前ですよね…ハハッ…                        「歓楽街勤務の女性Yからの証言…」 パイロット①: 「こちら、キラー3、キラー3、ドナスの機がやられた。信じられるか?小銃でフル装備のガンシップを落としやがった。機銃が弾切れ?畜生、対戦ミサイルを使え。こんな冬山だ。熱誘導で当たるだろ。そら、行けっ!どうだ?」 パイロット②: 「駄目だ。キラー3、アイツ、岩と岩の間を走り抜けてる。岩は熱を発しない。だから、 弾が当たらないんだ。普通なら、爆風で死ぬけどな。普通じゃないんだ!アイツは…う、うわー…(雑音のみになる)」 パイロット①: 「嘘だ…こんなのありえねぇ…銃弾でヘリのローターを全て吹き飛ばすなんて…神様… (再びの雑音、これ以降通信は拾えず)」                          「紛争地域の混戦通信盗聴記録」 “極秘資料”と書かれたファイルの中に様々な時代、紛争、災害地域の写真と、写真の無い時代の葉書、絵巻のようなモノが挟まれている。それら全てには目元に傷のある黒を色調、あるいは黒っぽい印象を与える人物が写り、描かれている。                          「出所不明の記録…」 我が国の猟奇殺人、誘拐事件は大抵が迷宮入りだ。だが、あの時は違った。密告の電話が あったモーテルで犯人は半死半生で震えてた。彼はこう言った。“黒い奴にやられた”と…                                                 「退役警官の覚え書きより抜粋」 人類が既に滅びたという発言を下げる気はありません。ただ、これだけは言えます。 私の計算が合わない理由は…誰かが、そう…戦っているのです。国や政治の動きに 捉われず、何の庇護も援護もなく、たった一人で何年も世界の為に誰かが…                          「ある統計学者の持論より抜粋」 この発言に対する一切の質問は拒否です。ただ、我々各国の専門機関は、ある コードネームを見た時は畏怖と安心を同時に覚えます。正体は全て不明… だけど、戦う。どんな政治的拘束も聞かず、妥協はありません… 我々の敵になる事だってある。 これは先人達から受け継がれている事です。名前は“ダークライト” 問題は、彼が何故、戦うのか?と言う事です。人は自分に利益が無いのに、危険を冒す事はあまりしません。それとも彼はヒトでは…いえ…失礼しました。                           「匿名の人物からの証言」 あ、後、それと何か言ってたな…よく聞き取れなかったけど、えーっと確か 捨てた、“〇〇〇〇も捨てたもんじゃねぇな”って。何がってのは聞こえませんでしたけど…                        「歓楽街勤務の女性Yからの証言」… 少年は光の中を走っていた。熱帯の太陽が照らし、輝く水田のあちこちには対人地雷が投げ込まれている。後ろでは銃を構えた男達が札束を握り締め、自分達を指さしていた。 死のレースだ。向こうの淵までたどり着けば、彼は生き残れる。周りを走る者も同じだ。 だが、一瞬だけの生…すぐにレースは再開される。彼等が地雷を踏むまで、これは続く。 少年は足を止め、男達に振り返る。もう、ウンザリだ。どうせ死ぬなら… 希望はない。でも、最後の最後に抗うと決めた… 「ハハッ、たいしたガッツだ。まだ、捨てたもんじゃねぇ、この世界も!」 ふいに響いた笑い声と一緒に少年の後ろから男が飛び出す。銃弾を全て受けても倒れないそいつは光の中にいるのに、全身が何故か真っ黒のままだった…(終)
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