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 午前中で学校を出て、予備校の実習室に入っている。三年の部活仲間からの通知が忙しい。 『出でよ、既読神! 』  ……中二病かよ。俺宛のリプ。思わずストローをすすった音を自習室で響かせてしまった。 『エマといつから本当に付き合ってた? 』 『俺たち騙されてたのかよ』 『正門でイチャついてた話を説明しろ 』  仲間からのコメントが俺への問い掛けに集中している。正確にはまだ何も進展してない。 「まだ付き合ってない」と送ろうとして、「まだ」を、慌てて削除する。手短に説明する言葉を選ぶのがかったるい。 [返信]そもそもエマが俺を好きだと聞いてない 『じゃ、どうするんだ? 』 『お前は? 』 [返信]エマと付き合いたいかな 『やっとかよ 』 『受験なのによーやるわ 』 [返信]俺、昔、リカ先輩と付き合ってたんだよ 二年の途中まで 『マジか』 『知らなかった』 『俺、リカ先輩好きだったー』 『ショックだ』  ここぞとばかりにスタンプが連続して通知が流れてくる。 [返信]別れた理由の半分はエマかな エマはそれ知ってるかどうか分からない 『まぁ、そうなるかな』 『よく隠せてたな』 [返信]はっきり止めろと言えなかった俺が悪いんだけど、リカ先輩と別れてしばらくはエマが煩わしかった その態度がずるずる続いたし、エマも何となく察してるのかボーダーラインあったし 『めんどくせー』 『優柔不断』 『まぁ、部内恋愛はなぁ~』 『いや、解禁だろ』 [返信]今朝、やっとエマとLINE繋げただけだし、振られたらフォローしろよな 『そこからかよ! 』 『俺、交換してるぞ』 『先に告ってくるかな』 『www』  また意味のないスタンプが乱立する間に、タイムラインをエマに移す。トーク欄には、まだ何もない。この空っぽなスペースを既読神の俺が埋めて行かなきゃならない。  無難にスタンプを押すにも、気の利いたものを持っていない。  マフラーのお礼を言うのを忘れていたのを思い出し、まずそこから始めることにした。「マフラーありがとう」と書いて送信のタップを押す、同時にエマからスタンプが飛んできた。  かわいくデフォルメしたトナカイのキャラクターが「会いにいくね♡」とウインクするアニメーションものだ。  あまりのタイミングに画面を見つめてると、背景がクリスマスの絵柄に変わった。女の子は忙しいなと思う。  スタンプじゃなかったら、座ってるパイプ椅子を軋ませるところだったかも。 [返信]その話はこっちから始めたかったな  と返すと『ごめんなさい』と戻ってくる。 [返信]いいよ  出来るだけこっちから積極的にしたいのに、エマのモーションが早くてなかなか追いつけない。慣れてないことをしようとしている。 「1つ科目が増えたと思ってタスクをこなす気でやってかないとな……」  気持ちの切り替えのスイッチを増設しなきゃならない。学科の授業の始まるわずかな時間をエマとのやり取りに当てて、俺はいくつかのアプリを削除した。
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