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――2019年春 新千歳空港ラウンジ
「ここって、確か……」
「保安検査場を通らないと来られない場所よね」
康永とみはるは、人がひっきりなしに行き交う空港のラウンジにいました。時計を見ると、みはると優希先輩が別れた時間の少し後のようです。
「これ、大丈夫なの?」
「大丈夫です! 時間と場所を移動して来ただけですから」
みはるが佳奈に聞くと、根拠の無い自信を持って答えられてしまいました。
♪〜日本航空518便、東京羽田空港行きはまもなくお客様を機内へとご案内いたします。ご利用のお客様は、14番搭乗口のお近くでお待ち下さい。
ボーディングブリッジの外には白く塗装された大きな旅客機が見えます。
「これは、優希先輩が乗った飛行機ね」
それを見たみはるがつぶやくように言うと、佳奈がささやきました。
「西崎先輩、今こそ彼に想いを伝えてください!」
続いて状況が飲み込めていない康永も、
「なんだかよく分からないけど、とにかく想いを伝えてください。嶋田先輩が好きだったんでしょ?」
と、みはるの背中を押しました。しかし、
「ありがとう、だけどね……」
「「だけど!?」」
一呼吸置いてみはるは、
「優希先輩はね、これからも部のサポートをしてくれるって、約束してくれたの。ほら、去年の卒業式の写真とか送ってくれてるよね。もし私の気持ちを伝えて、先輩とうまくいかなくなったらみんなも困るでしょ? あのデータが無いと新聞作れないもの」
みはるはなんだか煮え切らない感じにも見えます。しかし、
「みはる先輩! 想いを伝えられるのは今しか無いんですよ! データよりもまずは先輩です!」
と、そこに……
「あれ? 西崎さんじゃない。キミも飛行機に乗るのかい?」
くだんの優希先輩が気付いてこちらに来ました。
「あの、え、えと、まあ、そんなところ、かな……」
優希の登場にみはるは取り繕うとしますが、佳奈が宣言するかのように言いました。
「西崎先輩、あなたに伝えたいことがあるそうです。時間を頂けませんか?」
「あ、ああ、いいけど」
「ち、ちょっと!?」
「西崎さん、頑張って下さい!」
康永も背中を押して、二人はみはると優希先輩から離れて行きました。
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