十一

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十一

尚太郎と藤は、赤い電車で数駅揺られ、KBCの会場である『KS筋肉文化会館』に到着した。 Kフィットネスが建設したこの施設は、洗練されたモダンな外観や、エントランスに飾られたマッチョの銅像が、アートミュージアムのような雰囲気をかもしている。 「地下2階は駐車場、地上3階はすべて多目的ホールで、KBCのほか、筋肉交流会や全国統一筋肉テストなど様々なイベントに利用されている。そのため筋肉の聖地として崇められ、29(にく)日の金(筋)曜日には筋肉崇拝者たちが礼拝に訪れるんだ」 「へぇ」 藤の説明に相槌を打って、黄金の自動ドアを抜けた尚太郎は「うわ、」と声をあげた。 広々としたロビーには、男性ホルモンの塊たちが密集し、むんむんと熱気を放っている。 「す、すごい人ですね……。参加人数少ないんじゃなかったんですか?」 「参加者は、ボディビル部門が67人、フィジークが90人だが、そのサポーターもいれば観覧者もいる。KBCは会長のおかげで注目度が高く、それに比例して質も高いから、トレーニーたちがこぞって見にくるんだ。あと、あれも人が集まる理由の一つだな」 藤が指差した先にはKフィットネスの物販ブースがあり、自社ブランドのサプリメント、アパレル、フィットネスグッズなどを販売している。 いずれも高品質で、トレーニーの根強い人気を得ているため、かなり繁盛しているようだ。……いや、あの繁盛ぶりは、売り子の人気も大いに影響しているにちがいない。 「うっほぉぉぉーーー! 来宮くぅん! かっこいいーーーい!」 耳をつんざくような野太い声に、 「あはは……」 苦笑しているのは、ボクサーの来宮選手だ。
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