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初プロテインだ。まずいイメージがあったのでおそるおそる飲んだが、意外に甘くて飲みやすかった。イチゴシェイクの味だ。
「ご、ごちそうさまです。おいしかったです」
「そうだろう、そうだろう。この『きゅんきゅんラブベリー』はKフィットネスブランドのプロテインで一番人気のフレーバーだからな。『ときめきロマンチックショコラ』と『どきどきセクシーミルク』も美味いぞ」
「……ネーミングセンス……」
「なんか言ったか?」
「い、いえ、なにも」
藤は腰に手を当てて誇らしげに室内を見渡した。
「ここは俺のじいさんが愛人にあてがう住まいのひとつだったんだが、古くてオートロックもない物件は愛人が好まないからって俺にくれたんだ。たしかに古いけど造りは頑丈で壁も分厚いから、周囲への騒音を気にせずトレーニングできる」
(愛人って……)
尚太郎は微妙な顔をしつつ、藤がどことなく優雅な雰囲気を醸しているのは、マンションを与えられるほど裕福な家庭に育ったからなのだと納得し、「はぁ……」と息漏れのごとくつぶやいた。
そんな彼に、藤はびしぃっと指を突き出し、
「ここで、俺がおまえにパーソナルトレーニングしてやる」
尚太郎はKフィットネスジム会員だが、ジムの料金は利用時間に応じて支払うシステム(お得な年間フリーパスもある)なので、ここでトレーニングをしても損はない。どころか得だ。
なによりプロのトレーナーにマンツーマンで教えてもらえるなら効率よくやせられるだろう。
「あ、ありがとうございます。えっと、いくら払えばいいでしょうか?」
「タダでいい」
「えっ!? い、いや、それは申し訳ないです」
「いいんだよ。これは俺の趣味だから。ぐだぐだ言わずありがたがっとけ」
「は、はい……ありがとうございます」
「おう」
「……あ、あの、さっきから気になっていたんですが、口調が……その、このまえと違いますね……」
「言ったろ、これは俺の趣味だ。仕事じゃねぇから地でやる。ってことで早速始めるぞ。とっととトレーニングウェアに着替えろ」
「え、持ってきてませんけど」
「なんでだよ」
「持ってくるよう言われなかったので… …この格好じゃダメですか?」
藤は、尚太郎が着ているTシャツとウエストがゴムのチノパン(どちらもビッグドリー男で購入)をじろじろ見た。
「んー……金具とか付いてねぇからシート痛める心配はねぇし、まぁいいか。次からはもっと動きやすい服持参しろよ。じゃないとパンツ一丁でやらせるからな」
「わかりました。必ず持参します。絶対に」
「いい子だ」
そう言うと、藤は尚太郎の手首に、原色レインボーカラーの帯をすばやく巻いた。
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