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「え?」
「カーディオをメインとした減量では脂肪だけでなく筋肉も落ちます。そうして痩せて手に入るのは、筋肉とともに代謝も落ちた細い身体です。あなたはそんな身体を目指しているのですか?」
「い、いえ……」
「ですよね! そうですよね! 分厚い筋肉の鎧をまとった雄々しい勇者のような肉体になりたいですよね! ♪無限大な脂肪のあとの何もない抜け殻じゃ、そうさ痛々しい想いも禁じ得ないけど、Stayしそうなイメージを超えた頼りある筋肉なら〜きっと飛べるさ〜OnMyLove……」
鼻息荒くまくしたてられたあげく艶やかな美声で歌われて、思考回路が混乱した尚太郎はついうなずいてしまった。
「そうでしょうとも。男はみなヘラクレスに憧れるものです。股間も肉体も」
さらりと挟まれた下ネタも、白い歯をキラリと光らせてサムズアップされると、爽やかな風にかき消されてしまう。
「ならば筋トレをメインにすべきです。いいですね、いいですよ、よし。というわけでまずはビッグ3で全身を鍛えていきます」
「ビッグ3?」
「スクワット、ベンチプレス、デッドリフトのことです。この3種目は、大腿四頭筋や大臀筋、大胸筋などの大きな筋肉を主に鍛えられます。また、その動きを補助するために他の小さな筋肉も動きます。ほぼ全身の筋肉を連動させて高重量を扱う種目。それがビッグ3。全てのトレーニーにとって始まりの町であり最終ダンジョンでもあるトレーニングです」
よくわからない例えを、尚太郎は「避けては通れぬ」という意味に受け取った。
藤はなぜかしきりに胸ピクしている。
「大きな筋肉を動かせば消費エネルギーも高くなります。とりわけスクワットは、一番大きな筋肉群である大腿部をメインに鍛えられるので代謝を上げるためにまずこなしたい種目です。あなたの場合、自重でも十分かもしれませんが、シャフトくらいの負荷はかけていいでしょう。さぁ、しゃがんでください」
「は、はい……」
おそるおそる腰を落とした尚太郎の膝を、藤がびしっと指した。
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