十一

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来宮選手はポケットから艶やかなピンクの紐を取り出した。 吉田会長の顔が引きつる。 「え……何?」 「フランスから取り寄せたオーロラピンクのシルク糸を、リリアン編み機でせっせと夜なべして編みました」 「……で、何?」 「紐だけビキニです」 来宮選手はまばゆい王子様スマイルで、シンデレラにガラスの靴を差し出すように恭しく、吉田会長へ紐だけビキニを差し出した。 「自信作です。これまで着てもらったどの紐だけビキニよりも、あなたの豊満ボディを美しく飾り立てるでしょう。夜まで待てないのでスタッフルームで着け……いたたた!」 言い終わる前に、吉田会長が来宮選手の耳を引っ張った。 「ほら、とっとと歩け。……あと、忘れてるようだけど、今夜は一晩中アメリカ行きの飛行機の中だからな。変なことするなよ」 「わかってますよ。だから今すぐ紐……」 「粛清の右フックで黙らせてやろうか」 「ごめんなさい……」 通路の奥に歩いていく二人をぽかんと見送る尚太郎の手を、藤が引いた。 「尚太郎、俺たちも受付いくぞ」 「はい。……藤さん、来宮選手と友達なんですね」 「ああ。会長のマンションに居座ってたときに、帰省したあいつと会って、ビーストイレブンの話で仲良くなった」 「へぇ」 「あ、そうだ。巨大スクリーンでビーストイレブンシリーズ全3650話を20倍速で観るファンイベントが来月あるんだが、おまえも行くか?」 「遠慮します」 そんな会話をしているうちに受付に着いた。
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