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来宮選手はポケットから艶やかなピンクの紐を取り出した。
吉田会長の顔が引きつる。
「え……何?」
「フランスから取り寄せたオーロラピンクのシルク糸を、リリアン編み機でせっせと夜なべして編みました」
「……で、何?」
「紐だけビキニです」
来宮選手はまばゆい王子様スマイルで、シンデレラにガラスの靴を差し出すように恭しく、吉田会長へ紐だけビキニを差し出した。
「自信作です。これまで着てもらったどの紐だけビキニよりも、あなたの豊満ボディを美しく飾り立てるでしょう。夜まで待てないのでスタッフルームで着け……いたたた!」
言い終わる前に、吉田会長が来宮選手の耳を引っ張った。
「ほら、とっとと歩け。……あと、忘れてるようだけど、今夜は一晩中アメリカ行きの飛行機の中だからな。変なことするなよ」
「わかってますよ。だから今すぐ紐……」
「粛清の右フックで黙らせてやろうか」
「ごめんなさい……」
通路の奥に歩いていく二人をぽかんと見送る尚太郎の手を、藤が引いた。
「尚太郎、俺たちも受付いくぞ」
「はい。……藤さん、来宮選手と友達なんですね」
「ああ。会長のマンションに居座ってたときに、帰省したあいつと会って、ビーストイレブンの話で仲良くなった」
「へぇ」
「あ、そうだ。巨大スクリーンでビーストイレブンシリーズ全3650話を20倍速で観るファンイベントが来月あるんだが、おまえも行くか?」
「遠慮します」
そんな会話をしているうちに受付に着いた。
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