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「ターゲットへの意識を散らすな!」 「は、はいっ!」 尚太郎はシャフト(柄)がうねうねと曲がったバーベルを両手で握り、立った状態でアームカールしている。 「最後までしっかり力を入れろ!」  「くぅっ……!」 「よし、もういいぞ」 バーベルを壁際のラックに掛けた尚太郎は、荒い息を整えながら訊ねた。 「……藤さん、このシャフトなんで曲がってるんですか? 強く握りすぎたんですか?」 「俺はどこのケルベロスブラックだ」 「わかりません」 尚太郎が真顔で答えると、藤は「ビーストイレブン2話の世界大戦阻止ミッションで、ケルベロスブラックがついうっかり玄武グリーンのキャノン砲を握り潰したシーンを引き合いに出したことくらい常識としてわかれよ」と非常識なことをのたまいつつ、うねうねバーベルを指した。 「こいつ……『EZバー』は、生まれたときから曲がった奴なんだよ。だけどそれには理由が……」 (2話で世界大戦を阻止するのか……ビーストイレブンって思ってた以上に過酷な任務をこなしてるんだな。味方の武器を破壊しちゃったけど、阻止できたんだろうか……たぶんできたんだろうな。最後まで危機に陥らなかったそうだし。……世界大戦ってなかなかの危機だと思うんだけど……ペガサスレインボー出すハードルどんだけ高いんだろう。……あ、そうか、みんな失明したくなかったのか) 尚太郎がビーストイレブンで頭を占めているあいだに、藤はひとしきりEZバーの悲しい生い立ちを語りつくし、飽きたのか普通に説明を始めた。 「というわけで、アキラ……もといEZバーを握ると親指が上を向くから、二頭の外側に刺激が入る。 普通のストレートバーを握ると小指が上を向くから、二頭の内側に刺激が入る。効かせたい部位によって使い分けてるんだ」 「そうなんですか」 説明部分だけしっかり聞いてうなずいた尚太郎は、ふと、隣のラックに並ぶダンベルを見やった。以前から抱いていた疑問が口をついて出る。 「バーベルあるならダンベルいらないんじゃないですか?」 藤はやれやれと肩をすくめて、10kgのダンベルを2つ手に取った。
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