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五
「ターゲットへの意識を散らすな!」
「は、はいっ!」
尚太郎はシャフト(柄)がうねうねと曲がったバーベルを両手で握り、立った状態でアームカールしている。
「最後までしっかり力を入れろ!」
「くぅっ……!」
「よし、もういいぞ」
バーベルを壁際のラックに掛けた尚太郎は、荒い息を整えながら訊ねた。
「……藤さん、このシャフトなんで曲がってるんですか? 強く握りすぎたんですか?」
「俺はどこのケルベロスブラックだ」
「わかりません」
尚太郎が真顔で答えると、藤は「ビーストイレブン2話の世界大戦阻止ミッションで、ケルベロスブラックがついうっかり玄武グリーンのキャノン砲を握り潰したシーンを引き合いに出したことくらい常識としてわかれよ」と非常識なことをのたまいつつ、うねうねバーベルを指した。
「こいつ……『EZバー』は、生まれたときから曲がった奴なんだよ。だけどそれには理由が……」
(2話で世界大戦を阻止するのか……ビーストイレブンって思ってた以上に過酷な任務をこなしてるんだな。味方の武器を破壊しちゃったけど、阻止できたんだろうか……たぶんできたんだろうな。最後まで危機に陥らなかったそうだし。……世界大戦ってなかなかの危機だと思うんだけど……ペガサスレインボー出すハードルどんだけ高いんだろう。……あ、そうか、みんな失明したくなかったのか)
尚太郎がビーストイレブンで頭を占めているあいだに、藤はひとしきりEZバーの悲しい生い立ちを語りつくし、飽きたのか普通に説明を始めた。
「というわけで、アキラ……もといEZバーを握ると親指が上を向くから、二頭の外側に刺激が入る。
普通のストレートバーを握ると小指が上を向くから、二頭の内側に刺激が入る。効かせたい部位によって使い分けてるんだ」
「そうなんですか」
説明部分だけしっかり聞いてうなずいた尚太郎は、ふと、隣のラックに並ぶダンベルを見やった。以前から抱いていた疑問が口をついて出る。
「バーベルあるならダンベルいらないんじゃないですか?」
藤はやれやれと肩をすくめて、10kgのダンベルを2つ手に取った。
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