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「おはよう」
昨日の少女が彼女のまえに現れた。
少女は彼女のもとに走ってくると、小さな腕
をひろげ、彼女に抱きついた。
その後に、少女の両親が続く。
「やっぱり、いつ見てもきれいね」
「そうだね」
少女の両親が笑顔で少女と、そして彼女のことを見つめていた。
彼女は彼らのそんな姿を、目を細め見つめていた。
「元気になったね」
少女は彼女にふれながら、そう笑顔でいった。
彼女はそれに応えるように、大きく元気よくからだをふるわせた。
それを風が手助けし、彼女のからだはさらに大きくゆらゆらとゆれた。
木漏れ日がきらきらと美しく、少女に差し込んでいた。
それにうれしそうに声をあげ、少女は大きく腕を広げた。
日差しが、今日もまぶしい。
風も草木も鳥たちも、彼女と少女に優しいまなざしを向けていた。
「うるさいんだよ」
突然、少女の反対から、大きな声がした。
少女がびっくりして反対にまわりこむと、ひとりの少年が、少女をにらみつけていた。
「うるさいんだよ」
彼女の足元にからみつきながら。
「うるさいっていうほうがうるさいの!」
少女がそう少年にくってかかったのに、彼女は少し驚きながらもふたりのことをじっと見つめていた。
「うるさいなあ」
「ごめんなさい」
その声を聞きつけてか、少年の母親と少女の母親があわてて走りよってきた。
「この子、ちょっと機嫌が悪いみたいで、本当にごめんなさい」
「いいんですよ」
少女の母親が、少年の母親にそういった。
少年が、母親の足元にすがりつく。
「引っ越してきたばかりで、知らないことばかりでして」
「こちらに引っ越してきたんですか」
「ええ、そうです」
母親ふたりが、話を始める。
「きぐうですね。私たちもなんですよ」
「えっ、そうなんですか」
少年の母親と、少女の母親は意気投合し、楽しそうにおしゃべり続けていた。
「この木がとてもきれいだって聞いたものですから」
「ええ、そうなんですよ」
少女は、母親の足元に隠れている少年のもとにゆっくりと近づいていった。
「ねえ」
そして、そう少年に声をかけた。
「ここらからがとってもきれいに見えるよ」
少女は少年の手をひいて、彼女の足元へと連れて行った。
「ほら」
木漏れ日がきらきらと地面に差し込んでいた。
「ほんとだ」
それに思わず少年が声をあげた。
「ねえ、きれいでしょう」
少女はそう少年に微笑みかけた。
少年と少女の目があった。少女のほうを見た、少年の顔が、少しだけ、りんごのように赤くなるのを、彼女は見逃さなかった。
「ちっとも、きれいじゃないやい」
少年は少女にあわててそういうと、母親のもとに走り去っていった。
「きれいだもん」
少女もあわててそれを追いかける。
「きれいじゃないやい」
「きれいだもん!」
ふたりはそう言い合いながら、互いの母親の元にたどりついた。
「ここはとても素敵なところなんですね」
少年の母親が少女の母親にそういった。
「ええ、とっても素敵なところですよ。今度案内しますね」
「ありがとうございます」
「きれいじゃないやい」
「きれいだもん!」
「ほらほら、言い合いはやめて」
母親たちの笑い声が彼女の耳に聞こえてきた。
風たちも、そんな彼らの姿に思わず笑い声を上げた。
鳥たちはそんな彼女たちを遠く、空高くから見つめていた。
少年と少女はまだ、いい合いを続けていた。
「こらこら」
母親に手を引かれながら、ふた組の家族は、笑顔で彼女のもとを去って行った。
「またくるからね」
そういって微笑む少女の声が、彼女のもとにはっきりと届いた。
そして日が沈んだ。
月が彼女の頭上で輝き、星たちがさわさわとおしゃべりを始めた。
彼女の子供たちも、目を覚まし、からだをうんと伸ばした。
そろそろ、巣立ちのときかもしれない。
彼女はそう思った。
子供たちも、いつかはここを去っていく。
けれど、それを風たちや、草木がそっと見守ってくれるだろう。
「おかあさま」
子供のひとりが彼女に声をかけた。
「ええ、大丈夫よ」
彼女はひとりじゃない。
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