カメラ越しの憂鬱

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「久世ってさ、人物撮らないよね」 撮り溜めた写真を眺めながら物思いに耽っていると、頭上から突然低音が降ってきた。 「……っ!勝手に覗かないでくださいよ」 「いーじゃん、減るもんじゃないし」 オレ結構久世の写真好きなんだよね~、とニコニコしながら覗いてくるのは、2年の蕪木(かぶらぎ)先輩。 一見チャラそうな感じなんだけど、凄く繊細で綺麗な写真を撮るから意外だ。 今年の写真部には3年生が一人も居ないから、蕪木先輩が2年生で部長をつとめている。 「なんで人物撮らないの? 苦手なの?」 「いや、別にそういうんじゃないすけど……」 言われてみれば、俺は今まで被写体に“人”を選んだことが無かった。 建物や風景、空や植物、犬や猫の動物…… 見返してみると、人物は一枚もない。 「今度撮ってみてよ。彼女とかさぁ」 蕪木先輩にそう言われて、俺はぐっと言葉に詰まった。
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