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中学から続けている陸上の短距離。
中体連でも結果を残している彼女は、1年生ながらすでに期待の星のようだ。
この窓から陸上部の練習が見えるのは知っていた。
けれど、あえて見ようとはしなかった。
盗み見るようでなんか気が引けるし……
なにより、蕪木先輩を筆頭とした噂好きな先輩たちに見つかって、冷やかされるのは真っ平ごめんだからだ。
それなのに……
詩乃を視界に捉えた瞬間、
俺は思わずカメラを手に構えていた。
初めてファインダー越しに見る詩乃は、思ったよりずっと遠くにいて、小さ過ぎてピントが合わない。
手が届きそうで、届かない。
近いようで、遠い。
俺らの関係をあらわしてるようで、妙に焦る。
ズームをきかせてピントを調節すると、
段々と、はっきりその姿が見えてきた。
もっと。
もっと、近づきたい……
―――触れられるくらいに。
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