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―――そのとき。
詩乃が、ふとこちらを見た。
俺は慌ててカメラを下ろすと、窓に背を向ける。
今、目が合った……? よな、確かに。
と言っても、カメラ越しにだけど……
こちらからグラウンドが見えるということは、
あちらからも見える距離というわけで。
……俺ってバレたかな。いや、まさか……でも
「な~に一人でアワアワしてるのかな」
「わ!!」
不敵な笑みを浮かべた蕪木先輩が唐突に顔を覗きこんできて、俺はその場で飛び上がってしまった。
「真剣な顔して誰を見てたんだか」
「……っ見てませんよ、別に」
「久世はフォトコンの写真、人物部門に決定な!」
「なんっ……!」
「部長命令~」
先輩にニヤニヤしながら背中を叩かれ、俺はがっくりと肩を落とした。
バレバレ、ってことですか……
はぁ……敵わないなぁ。
ファインダーの先に見た詩乃の姿を、もう一度頭の中で思い描く。
幼い頃からこの目で見てきた彼女と……まるで、別人のような感覚がした。
ざわつく気持ちを誤魔化したくて、俺は目にかかる前髪をがしがしと乱した。
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