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7月も中旬になると、登校してくるだけでじんわりと汗が滲む。
シャツの第2ボタンを外して不快な胸元に風を送りながら、俺は靴箱の上履きを取り出した。
つま先に片足引っ掛けているところで、背中を叩かれる。
俺は腰を屈めたまま、顔だけ振り返った。
「おはよ」
目線の先には、見慣れたスカートから伸びる長い足。
挨拶を返すのも忘れてしばし釘付けになっていると、
「どこ見てんの!」
頭のてっぺんを指でグリッと押されて。
「イッテェ……」
地味に痛いんだよ、これ。
ハゲたらどーしてくれんだ……
眉間に皺を寄せて頭を擦る俺のことはお構い無しに、声の主は顔の前でパン!と両手を打った。
「ねぇ、正宗くぅん! 一生のお願いがあるんだけど」
普段と真逆のやたら甘ったるい口調に、俺は思わず顔をしかめる。
「……それ気持ち悪いよ」
「なに!? 失礼だな!
これでも精一杯かわいこぶってみたんだけど?」
後ろで一つに束ねた柔らかそうな髪を揺らしながら、彼女はケタケタと笑った。
“かわいこぶった”という変な猫撫で声よりも、
屈託のないその笑顔のほうが、
俺にとっては何倍も破壊力があるというのに。
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