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「……それより、なんで詩乃が家にいるの」
「だって、今日命日でしょ? お父さん。
お線香あげに来たんだよ」
「あぁ、覚えてくれてたんだ」
「当たり前!」
―――うちの父さんが病気で亡くなって、今年でちょうど10年経った。
詩乃は毎年、父さんの命日にはこうして仏前に会いに来てくれている。
詩乃は、ウチの父さんによく懐いていた。
小さい頃から俺と兄妹同然に過ごしてきた詩乃にとってもまた、ウチの父さんは第二の父的な存在だったんだろう。
父さんが死んだとき、
母さんは、声にならない声で泣き崩れた。
母さんが泣くところを初めて目の当たりにした俺は、頭では理解してるつもりだけど気持ちが追い付かず、病院でもずっと泣けずにいた。
当時、俺はまだ6歳だった。
あとから親戚に聞いた話では、まるで人形のように表情を失って、ただただ呆然としていたらしい。
そんな俺に片時も離れずついていてくれたのが、
他でもない、詩乃だった。
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